ファイナンス 2025年1月号 No.710
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る*41。そうしないと、国際社会が韓国の天命思想に基う*46。主語を使わない日本語と、主語を使う韓国語のSPOTに対してだけ、ことさら特別な対応が考えられるわけではない。前回、英語の議論に負けないようにするためにとして述べた「ズームアウト」の議論と「ズームイン」の議論を使いこなしながら根気強く対応していくしかないだろう。日本としては、国際ルールを踏まえて、韓国の無理難題の主張に対しては日本でなら当たり前の思いやりなどは控えて正面から冷静に反論するといったことを繰り返して負けないようにするのである。その際、大切なのは速やかに反論することであづいた日本をことさら悪とする言い分を日本が受け入れたと受け取ってしまうからである。夫婦喧嘩が路上に出て行われるのが韓国だという。内輪の話を「世間」には持ち出さないという日本人の感覚では考えられないことだ。日本人の感覚から、日韓関係を夫婦関係と同様に大切なものだと考えれば、徴用工問題などを国連といった場に持ち出さないのが当然の対応ということになるのだが、そのような感覚は韓国では理解されない。「世間」に持ち出さないのは、日本の主張に根拠がないからだと受け止められてしまう。さらに、日本人の感覚で考えられないことは、葬儀において泣き女の伝統*42をもつ韓国では、日本からの「謝罪」は、日本の首相が何度も繰り返して土下座をして涙を流すというような外形的なアクションがないと本当の謝罪とは受け取られないということである*43。ただ、それは国際的なスタンダードではない。ということで、米国などとも意思疎通を図りつつ国際的なスタンダードでの日本の「謝罪」を確認することにより、戦後の日韓関係に区切りを付けようとしたのが、故安倍総理による「戦後70年首相談話」だったといえよう*44。韓国は伝統も文化も大きく変えてきた歴史を持つ国である。日本が国際的なスタンダードに従った対応を繰り返していけば、安定した前向きの日韓関係を築き上げていくことができるはずだ。なお、韓国と論争になると、理屈抜きに韓国を擁護する日本人がいることには留意が必要である。漫画家の山野車輪氏によると、韓国人が相撲や空手、歌舞伎、うどんなどの日本起源としか考えられないものを朝鮮半島起源だと理不尽な主張をすると、日本人に同調する人が出てくるのだという*45。筆者も、かつて言論NPOというNPO法人が行った日韓対話において、日本のTVで韓流ドラマが放映されているのに、韓国で日本のドラマがTV放映されていない状況を改善すべきではないかという質問を行ったことがあるが、それに反論したのは韓国からの参加者ではなく日本の学者だった。今やネットでいくらでも日本のドラマを見られるのだから、そんなことを問題にすべきではないというのであった。筆者は、退官後、韓国でアベノミクスについての講演を頼まれて訪韓したことがあるが、その際に出会った韓国人はみな素晴らしい人たちだった。それらの人たちが言っていたのは、徴用工問題にしても慰安婦問題にしても、最初は全て日本人が韓国に言ってきたことだったとのことだった。呉善花氏によると、日本人と韓国人のカソリックの尼さんに座禅をさせて脳波を測定したところ、日本人はリラックスした波を示したが、韓国人は興奮気味になったという。韓国人の場合は、日本人のように「心静かに神仏に祈る」というよりも、熱烈に神を求めていく気持ちを高めて祈っていく人が多いからだとい基本的な違いがその背景にあると言えよう。主語を使わない日本語では、座禅をすると私が無くなって「心静かに神仏に祈る」ことになるのに対して、主語を使う韓国語では神と相対する私が意識されて「熱烈に神を求めていく」ようになるのであろう。それは、どちらがいいという話ではない。本稿第1回の最初に「敵を知り、己を知れば、百戦して殆うからず」と述べた。そのことを最後に述べて、筆者の日本語と日本人の話を終わらせていただく。(完)日本語と日本人(第10回)*41) 日本人には無理と言われそうだが、大阪弁の掛け合い漫才の間合いを考えれば十分に可能と考えられる(本稿第2回参照)。*42) 泣き女の伝統は中国も同じである(「中国農村の現在」田原史起、2024、p30)。それが日本の伝統と異なることについて、芥川龍之介「手巾(ハン*43) 呉善花、2022、p79*44) 「宿命の子、上」船橋洋一、文芸春秋、2024、p341−395*45) “「韓流」は日本文化の盗用だ-『マンガ嫌韓流』こそ真の日韓相互理解に貢献できる”山野車輪・呉善花、Voice、2005.5、(PHP研究所)、p164*46) 呉善花、2022、p121ケチ)」(本稿第8回)参照 27 ファイナンス 2025 Jan.‐173

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