ファイナンス 2025年1月号 No.710
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SPOT 画*38はひどい。会社として何か対応しないのか」とファイナンス 2025 Jan. 26とによって日本語に取り込み、日本語での高等教育を可能にして急速な発展を実現してきた先人たちの知恵を失ってしまうということである*36。筆者は、退官後、外務省OBの故岡本行夫さんに誘われて、しばらく三菱マテリアルの社外取締役をしていた。そのとき岡本さんと一緒に対応したのが徴用工問題であった。徴用工問題は、韓国のみならず中国、米国との間での問題でもあったが、韓国との対応が最も難しかった*37。先の戦争時、日本の男性が根こそぎ徴兵されて労働力不足に陥った日本政府が行ったのが、未婚の女性や学徒そして外国人を働かせることだった。国民徴用令は、昭和14年(1939年)に制定されていたが、朝鮮半島に適用されたのは、インパール作戦が失敗に終わり、米軍がサイパン島を制圧して本土爆撃の体制を整えた昭和19年(1944年)の9月からだった。それまで朝鮮半島からは、働き盛りの日本人男子が徴兵されて労働力不足になり高賃金になっていた日本国内に、自らの意思でやってくるものがほとんどだった。日本人男子で徴兵された兵隊の数は、昭和18年に300万人台だったのが、昭和19年に500万人台に、昭和20年には800万人台になっていっていた(うち、210万人余りが戦没者となった)。その間、昭和19年と20年に国民徴用令で徴用された人数(日本人も含む)が、27万人余りに上ったのだった。戦争末期の物資不足の下、朝鮮半島から徴用された人々の労働条件には厳しいものがあり、暴動が起こったところもあったという。しかしながら、こと三菱の端島炭鉱(軍艦島)に関しては、非人道的なことがあったとは思われない。というのは、筆者も出席していた三菱マテリアルの株主総会において株主から「自分の父親は端島炭鉱で朝鮮半島から来た人々と一緒に働いていた。戦後も毎年同窓会が行われ、そこには韓国からも多くの参加者があり、みな口々に『自分たちは端島炭鉱で働いていたことを誇りに思う』と語っていたと聞いている。それが、最近封切られた韓国の映いう質問があったのである。そんなこともあって、財政史を研究していた筆者は、2021年に新潮新書から共著で出した「決定版 大東亜戦争(上)」の「財政・金融規律の崩壊と国民生活」において徴用工問題も取り上げた*39。韓国では、戦後、今日に至るまで新たな歴史が創り出され、それを基に日本に対して理不尽ともいえる批判が行われてきた。韓国では、そのような批判に対して日本を擁護するような発言があれば、それが学術研究であっても売国奴といった非難が浴びせられる。それは、異論を許さない中国流の天命思想の下における言論空間になっていると言えよう*40。中華文明の天命思想の下においては、前の王朝は徳が無かったので滅んだとされ、徳のある新たな王朝の歴史が創り出される。それによって、現王朝に反抗するものがことごとく悪として批判されて切捨てられるのである。韓国において政権交代があるたびに、前政権の指導者が罪に問われる背景にあるのがその伝統と言えよう。とすれば、こと日本に関しては、戦後日本の支配から独立した韓国が、前「王朝」である日本の支配下での徴用工などの出来事をことさら悪として断罪するのも、むべなるかなと言えよう。そして、そのような韓国の発信が国際社会で強い力を持つに至っているのが、今日の状況である。韓国は小中華を自称していた国だ。韓国語は、論理で論争する中華文明を受け継いで、元々強い発信力を持っていた。それが、全面ハングル化によって、今日世界を牛耳っている英語と同じ構造の言語になってさらに発信力を強めているといえよう。前回、利害関係の錯綜する今日のグローバル社会において日本語には、それを取りまとめていく優れた力があると述べたが、そのような強い発信力を持つに至っているお隣の韓国との関係をうまくマネジメントできないようでは、その力を発揮することは難しいと言えよう。と言っても、韓国小中華の歴史を持つ国との付き合い方徴用工問題についての筆者の経験日本語と日本人(第10回)*36) 今日、国際的な大学ランキングにこだわって、いたずらに英語での授業を増やし、日本語での高等教育の知恵を見失ってしまっている大学が見られる。*37) 中国との間では民間業者の募集による労働が、米国との間では戦時捕虜による労働が問題とされた。*38) 端島炭鉱で、非人道的で地獄そのものの「強制労働」の下にあった朝鮮人労働者400人余りの決死の脱出行を描いた韓国映画(2017年)*39) 「決定版 大東亜戦争(上)」新潮新書、2021,p248−50*40) 本稿第4回参照

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