ファイナンス 2025年1月号 No.710
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SPOT ファイナンス 2025 Jan. 20国家公務員共済組合連合会 理事長 松元 崇韓国語は日本語と同じ謬着語だがかなり主語*1を使う言語だ。かつては中国の漢字をそのまま用いる「文字言語」と見られていたが、今日では漢字を捨て去って全面ハングル化し、欧米語と同じ「音声言語」になっている。言語進化論華やかなりし時代なら、一つの言語で言語の進化を体現したものだとされそうな言語である。そして、国際的に強い発信力を発揮している。その状況は、未来に向かって開かれているのは韓国語だともいえそうなものである。今日の韓国語について見ていく前に、まずは韓国の歴史を振り返っておくこととしたい。古代の日本は朝鮮半島から満州にかけて勢力を伸ばしていた時期があり、清朝の時代に発見された広開土王碑(西暦414年建立)には、倭国が海を渡って百済、新羅を破り臣民としたことが記されている。663年、日本が唐と新羅の連合軍に敗れて(白村江の闘い)朝鮮半島での影響力を失っていった後に、朝鮮半島に覇を唱えたのが高麗(918年建国)で、高麗の国王は「王」ではなく中国大陸の皇帝と同格の「宗」を号していた。日本の天皇が「王」ではなく「天皇」を称しているのと同様である*2。それが、1259年、モンゴルに服従するようになって以降「王」とされ、高麗王の母親はすべてモンゴル人になった。1274年からの元寇の主体となったのは、この高麗王国の兵士たちだった。そのような13世紀に登場したのが檀君神話だった。それは、13世紀末に編纂された私選の史書「三国遺事」に初めて登場したもので、天神桓因(かんいん、帝釈天)の子桓雄(かんゆう)が太白山*3の神檀樹の下に天下りし、熊女との間に生まれた檀君(だんくん)が紀元前2333年に即位したとするものであった。朝鮮半島では、神々の集う場所は檀君神話に登場する太白山の神檀樹の下とされ、日本のように地域ごとに神様がいるわけではない。そこで、地域ごとに神を祀る社(やしろ)がなく村祭りがない*4。日本のような氏神信仰がないのだ。この点について、吉村外嘉雄氏は、朝鮮半島では支配階級の両班に反抗してたびたび“民乱”が起こったため、両班が「民衆が集う」のを恐れて「宗教行事」を禁じたためだとしている*5。そのような韓国民衆の宗教意識として特徴的なのがシャーマニズムである。韓国のシャーマニズムでは、死んでから霊はだんだんと浄化を遂げて鬼神の状況を経て最終的に先祖霊になるとされている*6。と聞くと日本と同様のように思われるが、韓国におけるその後のキリスト教の受容の仕方を見るとかなり違いそうだ。日本では、16世紀に宣教師が渡来した際、教えを聞いた人々が自分が洗礼を受けて天国に行けるのはいいとして父祖は行けるのかと問うたのに対して、宣教師が無理と答えたために多くの人が入信しなかったという。それに対して、今日の韓国ではキリスト教が最大の宗教になっているのである*7。1393年に高麗軍の副司令官だった李成桂が李氏朝鮮を建国した。李成桂は、明の洪武帝に朝鮮の国号をつけてもらい、中国の華夷秩序の中に自国を位置付けた。その華夷秩序(中華文明)の中心だった明が満州族の清(1636年)に滅ぼされると、李氏朝鮮は、当初、清への朝貢を拒絶していたが、たちまち攻略され小中華の国*1) ウリ(私たち)*2) 日本の天皇は、かつて「大王(おおきみ)」とされていた。天皇と称するようになったのは、7世紀の推古朝または天武朝からとされている。*3) 韓国慶尚北道にある1567mの山*4) 「世界失墜神話」篠田知和基、八坂書房、2023、p155*5) 吉村外喜雄のなんだかんだ(https://www.noevir-hk.co.jp/magazine/2013/09/post_479.html)。*6) 「謙虚で美しい日本語のヒミツ」呉善花、ビジネス社、2202、p196*7) 安倍元総理の暗殺で注目された世界平和統一家庭連合も、韓国におけるキリスト教の一派である日本語と日本人(第10回)―多様な変遷を遂げてきた韓国語―

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