連載PRI Open Campus ファイナンス 2025 Jan. 98ろに現在の税務執行や税制の問題があるのかが明らかになると思いますし、同時に、問題解決のためにデジタル技術を活用することや、デジタル経済に対応した簡素な税制を整えることの重要性が、広く認識されるようになるのではないかと思います。デジタル経済への税制の対応は、日本だけでなく、世界共通の課題ではないかと思いますが、国際社会では、どういった議論がなされているのでしょうか。国際的な観点では、前述のように2021年に「BEPS包摂的枠組み」において「第一の柱(PillarⅠ)」と「第二の柱(PillarⅡ)」が合意されました。デジタル技術の発達により、企業は進出先の市場国にPE(Permanent Establishment:恒久的施設)を置かなくともサービスを提供できるようになりましたが、そうすると、市場国で企業活動が行われているにもかかわらず、その国は税収が確保できないということになります。では、その所得はどこに流れているのかと言うと、企業の本国に流れている場合はまだしも、実際は低税率国(タックス・ヘイブン)に流れていることが多々あります。そういった状況がここ20年ほど続いてきて、「これではいけない」ということで、前述の「BEPS包摂的枠組み」ができ、議論が続けられてきました。「第一の柱(PillarⅠ)」は、デジタル企業に対し、課税権の配分を見直すというものでしたが、最終的にはデジタル企業だけでなく、巨大グローバル企業を対象として、課税権を市場国に再配分する枠組みとなりました。これを実際に導入するには多国間条約の批准が必要で、アメリカが反対しているため、今後の帰趨はわかりませんが、デジタル技術やデジタル企業に着目した課税権の議論はこれからも続くので、今後も注目していくべきテーマであると言えるでしょう。特に政策担当者には、どのような示唆を得てほしいと期待されていますでしょうか。今後は、日本も欧米のようにタックス・ギャップを把握した上で、デジタル技術を活用しながら効率的な税制を整えていく必要があると考えています。そのために参考となる議論の一つが、FR143号の私の論文でも触れている「日本型記入済み申告制度」です。多くの欧州諸国ではすでに導入されている制度で、納税者が税務当局からあらかじめ電子送付された所得情報などを確認し、間違っていれば修正してスマホやPCで申告するという制度です。これを日本で実装すれば、納税に必要な情報をマイナポータルに集約し、その情報がe-Taxに自動入力されることで、瞬時に申告を完了することができるようになるだけでなく、企業にとっては年末調整の煩雑な事務負担の解消、従業員にとってはプライバシーを守ることができる、といったメリットもあります。さらに、デジタル経済の進展によって増加しているギグ・ワーカーやフリーランスへの対応という点でも、日本型記入済み申告制度をさらに推進する意義があります。彼らは確定申告をする必要がありますが、申告のハードルが高いために申告が漏れてしまい、タックス・ギャップにつながっていると考えられます。ギグ・ワーカーとの情報の結節点であるプラットフォーマーと税制当局との情報連携をどうするか、プラットフォーマーにどう義務を課していくのか、といった問題を克服していく必要はありますが、FRがこうした検討・議論を深めていただく契機になってほしいと考えています。一般の読者・国民に向けて、お伝えしたいメッセージはありますでしょうか。デジタルやAIの発達が経済・社会を変えることは間違いありません。そして、経済・社会が変わるのであれば、税制や税務執行も変わっていかなければなりません。しかし、現状は技術革新のスピードに税制が追いついていません。税金は国や自治体が公共サービスを提供する際の財源ですから、このままでは財源が確保できず、政策が実行できないということにもなりかねません。一般の読者・国民の方々にとっても、実はこのように身近な問題ですから、経済・社会の変化に対応した適正な税制や税務執行とは何か、というこFRは様々な読者に手に取っていただいていますが、4. 政策担当者や一般の読者に伝えたいことPRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 39
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