す*5。しかし、この答弁から約10年が経っており、経連載PRI Open Campus写しながら説明し、次に経済理論モデルを用いた分析を行っています。従来の炭素税には、付加価値税との間で課税の累積を引き起こしたり、輸出の際に国際競争上不利になったりするといった問題がありますが、仕向地主義炭素税はこういった問題を克服することができ、経済厚生の面で望ましいということが、丁寧に考察されています。馬場・小林論文「抜本的な法人税改革―仕向地主義キャッシュフロー税と残余利潤の配分を中心とした新たな法人税制の可能性―」では、グローバル化・デジタル化に対応した望ましい法人税制のあり方について考察しています。2021年には、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において、経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する解決策として「第一の柱(PillarⅠ)」と「第二の柱(PillarⅡ)」が合意されました*4が、本論文は、現行の法人税制では、二つの柱を導入した後も課題が残ることを指摘しています。本論文では、さらなる抜本的な改革として、「仕向地主義キャッシュフロー税」や「残余利潤の配分」の導入について論考しており、これらは今後、国際的に議論される重要なテーマであると考えています。六つ目の岡論文「金融所得課税・富裕層課税の新たな展開」は、昨今注目が集まっている金融所得課税について、特に富裕層に対する所得課税の問題に焦点を当てて論じています。本論文の問題意識の根底には、金融資産が富裕層に集中しており、かつ、金融所得は制度的に軽課税や課税繰延の恩恵を受けているため、課税ベースからの脱漏や不公平を生んでいるという実態があります。アメリカ議会では、コロナ禍で拡大した格差に対して、税制全体での累進度の回復が議論されていますが、本論文では、こうした議論をフォローしつつ、比較法的な知見も交えながら、あるべき累進度の回復と、財源確保につなげるための選択肢として、富裕層課税の評価・検討を行っています。日本でも、こうした富裕層課税を本格的に検討すべき時が来ているのではないかと思います。デジタル技術の発達に伴う問題は、これからも続いていきますし、ますます大きくなっていくでしょう。現在は、税制がこうした問題に対処していく過渡期とも言えるタイミングですから、本特集号がその一つの切り口を提示することができれば、とても嬉しく思います。制に関する議論は、日本では欧米ほど注目を集めていない印象を受けますが、その背景について、どのようにお考えでしょうか。欧米を訪れて感じるのは、欧米でよく使われる「タックス・ギャップ」という概念が、まだ日本に浸透していないということです。「タックス・ギャップ」という言葉が、日本語に訳されていないことからも、そのことが窺い知れると思います。タックス・ギャップとは、本来納付されるべき税額と実際の納税額の差額のことで、アメリカの内国歳入庁やイギリスの歳入関税庁はこれを推計し、公表しています。一方、日本政府は約10年前の国会答弁で、個々の納税者によって適用される税法が異なることにより推計の正確性が担保できないことや、調査にかかるコスト、納税者の負担を理由に、タックス・ギャップの推計を行うことは考えていないと述べていま済・社会がより複雑化していく中で、私は日本でもこの議論を進めていく必要があると考えています。こういった推計を出すことによって、どういうとこAIを含むデジタル技術の進歩に対応した新しい税3.日本と国際社会の課題 97 ファイナンス 2025 Jan.challenges-arising-from-the-digitalisation-of-the-economy-october-2021.pdfjapanese/joho1/kousei/syuisyo/189/touh/t189032.htm)*4) https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/topics/policy-issues/beps/statement-on-a-two-pillar-solution-to-address-the-tax-*5) 参議院議員大久保勉君提出日本のタックス・ギャップの推計に関する質問に対する答弁書(2015年2月27日、https://www.sangiin.go.jp/
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