ファイナンス 2025年1月号 No.710
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連載PRI Open Campusものがありますが、本特集号では、特に税制に関連する二つの問題に着目しました。一つ目は、正規雇用や非正規雇用だけでなく、「ギグ・ワーカー」などの多様な働き方や、瞬時に国境を越えるビジネスが可能になったことで、税務執行が難しくなり、「タックス・ギャップ」が生まれるという問題です。これは、技術革新のスピードに税制や税務執行が追いつかず、税収の確保が難しくなり税の公平性が損なわれるという問題ですが、逆にデジタル技術を活用した新しい税制を考えることができれば、より効率的で、納税者にとってもプラスになるような世界が開ける可能性もあると考えています。二つ目のより大きな問題としては、デジタルやAIが発達していくことで、これらを使いこなせる人とそうでない人との間で「デジタル・デバイド」が大きくなり、格差をもたらす可能性があるということです。税制の大きな役割は所得再分配ですから、税制をどのように変えれば、デジタル経済がもたらす所得・資産格差を是正していくことができるのか、ということを考えるのがもう一つの大きな課題です。本特集号では、この二つを柱として、各論文を執筆していただきました。本特集号の執筆者の先生方には、研究者と実務家、経済学者と法学者、と様々なバックグラウンドを持つ方がいらっしゃいますが、どのようなお考えで執筆者を選定されたのでしょうか。研究者と実務家が混在しているというのは、まさに私が一番重視したポイントです。税制について論じる際に、研究者の視点のみだと、やはりどうしても理想論・観念論になってしまったり、あるいは難しすぎる内容になってしまったりすることがあります。FRは税制の専門家ではない一般の読者の目にも触れるので、実務家の方々にもご参加いただき、なるべく現実的でわかりやすい議論をしていただくことが不可欠だと考えました。また、経済学者と法学者の両方の視点が必要であるというのも、常々意識していることです。税制について検討する際には、経済学的なアプローチと法学的なアプローチの両方が重要な役割を持っています。経済学者のアプローチというのは、例えば最適課税とは何であるのか、データをもとに数式やモデルを使って考えていくという方法になりますが、それがはたして法律として実現可能かどうか、という検証はあまりなされていません。そこで、法学者が一つ一つ丁寧に確認しながら、制度・法律として形にしていく必要があります。有名な「シャウプ勧告*1」も、財政学者シャウプ教授と法学者サリー教授らの合作です。そういった観点から、本特集号においても経済学者と法学者、両方の先生方に参加していただきたいと考え、各テーマに関係の深い、実績のある方々に執筆をお願いしました。論文の執筆は各々の先生方にお任せしていますが、論文を書くまでに何度も集まって議論を重ねています。研究者と実務家、経済学者と法学者、それぞれの視点をお互いに交えながら完成させたという点に、本特集号の一つの特色があると考えています。各論文の概要と読みどころについて、ご紹介をお願いいたします。*1) GHQの要請によって1949年に結成されたシャウプ使節団による、日本の税制に関する報告書。2.各論文の関連性と読みどころ 95 ファイナンス 2025 Jan.

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