ファイナンス 2024年12月号 No.709
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連載PRI Open Campus3.中国経済の今後の展望*1) 2021年3月の全人代において、2035年までに「中等レベルの先進国の所得水準に達する」ことを目標に掲げた。これに先立ち、習近平国家主席は、2020年11月に長期目標に関する解説を発表し、「2035年までに経済規模を倍増させることは完全に可能だ」とした。を、日銀出身の福本委員(大阪経済大学経済学部教授)には、2035年*1を見据えた中長期の経済見通しについて幾つかのシナリオを置いて分析していただきました。政治外交関係については、小嶋委員(慶應義塾大学法学部教授)に機構再編から見た習近平政権の統治構想を論じていただき、松本先生(日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター東アジア研究グループ主任研究員)には外交政策の専門家として、米中関係に加え、台湾問題に焦点を当て、2024年1月の台湾総統選挙後の情勢を考察していただきました。そして日銀出身の瀬口委員(キャノングローバル戦略研究所研究主幹)には米中関係を中心に中国の内政と外交の相関関係を論じていただきました。産業政策については、渡邉委員(学習院大学経済学部教授)に現在の米中貿易摩擦を1980年代の日本の産業政策の経済分析の観点から再評価を行っていただきました。田畠:中国は2035年までに「経済システムの現代化」を目指すとしています。2035年を見据えた上で、中長期的視点で中国経済を見通す際のポイントを教えてください。田中:習近平政権では、社会主義理念に重きをおいた経済運営が行われてきており、これが中国経済の成長にどう影響するのか注目すべきと考えます。1990年代初めに「社会主義市場経済」がスタートし、これまではたが、今年7月の三中全会において「市場経済をどう社会主義的にコントロールしていくか」に軸足を置いた経済運営を行っていくことが示されました。特に、これまで市場経済化の発展あるいはイノベーションの担い手として存在感を強めてきた民営企業が、今後どれだけ活躍する余地があるのか見極めることが重要です。民営企業が活力を失ってしまう可能性を指摘する論文は、國分座長の巻頭言をはじめ本特集号の中に少なくありません。それから現在抱えている不動産市場、地方政府債務をはじめとするリスクを早期に処理できるかどうかも中国経済の先行きを占う上で重要なポイントです。仮に処理できなかった場合、2035年までに2020年対比でGDPを倍増させる計画は実現困難と言えます。加えて、本特集号で福本委員も指摘されているように、今後新たに発生し得るリスク、とりわけ近い将来に深刻化する少子高齢化をいかに乗り切れるかという点にも注目しています。仮に対処に失敗してしまうと、成長率は低迷し、中国指導部が思い描く中国式現代化が完成することなく、超高齢社会に突入してしまう可能性もあります。田畠:中国の財政金融政策の展望をお聞かせください。これまでは、「バラマキ」的な財政支出は行われてこなかった印象がありますが、足元の中国経済の減速局面では、従来とは異なる対応の必要性も議論されていますが、いかがでしょうか。田中:需要サイド・供給サイドで分けて考えると、現政権は供給サイドを重視した経済運営を行っています。供給サイドの質の向上が伴わない投資は、インフレを招くとともに無駄な投資に繋がりますから、これらを防ぐために供給サイドを重視しているのです。これはリーマン・ショック時に中国が徹底的な需要刺激策を講じたことで結果的に不動産市場・地方政府債務といったリスクを生み出してしまった経験を反省し、同じ轍は踏まない姿勢が窺われます。現在の供給サイド重視の政策は決して間違ってはい「市場経済化を目指す経済改革」が掲げられてきまし 90 ファイナンス 2024 Dec.(2)政治・外交(3)産業政策

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