ファイナンス 2024年12月号 No.709
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連載セミナー 最後に令和6年度職員トップセミナー講師略歴1986年筑波大学大学院生物科学研究科博士課程修了(理学博士)、アリゾナ大学神経生物学研究所博士研究員(1987-1990).2003年筑波大学生物科学系教授、2004年東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻教授、2006年同先端科学技術研究センター(先端研)生命知能システム分野教授、先端研所長(2016-2022)、アリゾナ大学Dep.of Neurosci.Adjunct Professor(2003-)、ミラノ-ビコッカ大学名誉学位(2019)、高野山大学客員教授(2023-)、東京大学名誉教授(2023-)、先端研シニアリサーチフェロー(2023-)、「高野山会議」ファウンダー.橋本市文化賞(2015)、和歌山県文化賞(2020)、橋本市岡潔数学体験館名誉館長(2024-)、JSTさきがけ「生体多感覚システム」研究総括(2022-)、JST ジュニアドクター育成塾、STELLA 推進委員長(2017-)。進化により獲得された生物(昆虫)の知能を生物学・工学・情報学の融合的アプローチにより再現し活用する研究、スーパーコンピュータ「京」「富岳」に昆虫の脳をつくる研究、匂いセンサの研究などに従事。日本工学アカデミー会員(2019-;理事2024-)、日本比較生理生化学会会員(会長2011−2015)、国際神経行動学会会員など、日本比較生理生化学会・学会賞(2008)、日本神経回路学会最優秀研究賞(2012)、JSPS ひらめき☆ときめきサイエンス推進賞(2013)、第2回HPCI(京)利用研究課題優秀成果賞(2015)、東京大学工学部2015年度Best Teaching Award(2016)など多数受賞。著書「サイボーグ昆虫,フェロモンを追う」(岩波書店,2014)、「ブレイクスルーへの思考」(東京大学出版会,2016)、「昆虫の脳をつくる」(朝倉書店,2018)など多数。「日経サイエンス」で特集いただいたのでご紹介させていただきます。また、私たちのこのような研究が、高校の生物の教科書にも紹介されるようになりました。さらに生物だけではなくて、物理の教科書で「昆虫操縦型ロボット」や、昆虫脳のコンピュータシミュレーションなどが紹介されています。多くの高校生に私たちの研究を学際的な研究として知ってもらえることを本当にうれしく思っています。私が本日申し上げた、人間中心から自然中心への視座の転回や、科学と芸術のバランスや自然との調和は、人類が今後、科学技術をさらに発展させ、持続的な社会を作り上げていくうえで、再度考えていくべきポイントであると思います。特に次代の社会や科学技術を担う子供たちの育成のうえでは大切です。現在、理科教育ではSTEM教育からSTEAM教育へと舵が切りなおされています。STEMすなわちScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)という理科、理性一辺倒の教育に、Art(芸術・感性)を入れ、理性と感性のバランスのとれた人材育成を目指すのが、STEAM教育と考えています。さらには、視座を自身から自然へと転回することがAであると思います。この転回ができて初めて、自分以外の他人や自然、そしていのちの大切さを感じることができるものと思います。私は仲間と、先端研や尾瀬で小中高生を対象とした自然探究教室やサイエンスキャンプを行っています。五感と感性を通して自然に触れ、さらに理性でサイエンスをする。東京フィルのコンサートマスターにも来てもらって一緒にその場で演奏会を行う、あるいは障害の当事者でインクルージョンの専門家にも来てもらうなど、自然環境と理性と感性の世界を子供たちと共有し、体験によって学んでもらいたいと思っています。自身の視座から自然へと視座を転回することで、あらゆるものがつながり、価値を持つことを体感し、そのような世界観からヒト独自の理性を発揮して、これからの人類のWell-Being、持続的な社会を切り拓いてくれる子供たちが育ってくれることを切に祈り、またそのような育成に少しでも貢献できることを祈り、講演を終わりにさせていただきます。長時間ご清聴いただきまして、どうもありがとうございました。神﨑 亮平(かんざき りょうへい)東京大学 名誉教授 東京大学 先端科学技術研究センター シニアリサーチフェローファイナンス 2024 Dec. 87

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