連載セミナー 令和6年度職員トップセミナー菜の花は、我々には花びら全体が同じ色にしか見えないのですが、紫外線が見えるミツバチには真ん中の色が違って見えるのです。実はそこに蜜があることを瞬時に見分けられます。我々にはそれができません。昆虫は匂いを探すのが得意です。オスのガはメスのフェロモンという匂いを頼りになんと2kmも離れたメスを探すと言われています。人にはこのフェロモンの匂いは全くわかりませんし、匂いがわかっても探し出すことは不可能です。視覚や匂いだけではなく、聴覚も同様です。人は20Hzから20kHzの範囲の音しか聞き取れないのですが、超音波あるいは低周波の音を聞き分け、コミュニケーションに使っている生物もいるわけです。このように感覚の世界というのは、生物によって随分違いますし、我々が検出できる感覚の世界はそのほんの一部でしかないわけです。(2)時間の世界次は「時間の世界」です。点滅している光は、周波数を上げていくと、どこかで常に光っているように見えます。この周波数を「臨界融合頻度」といいます。私たちは網膜にある光を感じる細胞(視細胞)で光の点滅を感じるわけですけが、一番よく見えるのは網膜の中央部で、1秒間に60回くらいの点滅が区別できます。しかしその周辺部では20回程度になってしまい、平均すると30~40回になります。それ以上の周波数では点滅していても、常に光っているようにしか見えないのです。ミツバチは1秒間に250回羽ばたきますが、ミツバチの臨界融合頻度は300回以上です。我々にはミツバチの羽ばたきは目にも止まらない速さですが、ミツバチは一回一回の羽ばたきを区別してみているようです。このように一瞬の時間は、生物によって大分違うのです。時間も生物にとっては感覚なのです。(3)大きさの世界最後に「大きさの世界」です。私たちのからだが昆虫ぐらい小さくなったらどうなるのでしょうか。おそらく周りが大きくなったというイメージで捉えているのではないでしょうか。実はこれは大きな誤りで、大きさが昆虫くらいに小さくなると、世界はだいぶ違ってきます。力の関係が変わってしまうという世界になってしまうのです。その世界は、面積と体積の関係からわかります。面積は縦×横、体積は縦×横×高さで求めます。面積は長さの2乗、体積は長さの3乗です。ここで、体積に対する面積の比を取ると、小さくなるにしたがって、その値はどんどん大きくなるのがわかると思います。つまり、小さくなると面積で効いてくる力が支配的になってくるのです。その力には、摩擦力や粘性力があります。小さなサイズでは、摩擦力や粘性力が相対的に大きくなり、空気もねばねばになってくるのです。小さくなると重さは長さの3乗で軽くなるので、小さな力で動かせそうですが、摩擦力や粘性力は2乗でしか小さくなりません。したがって、想定していた力では動かなくなるわけです。関節の構造はご存じと思いますが、ここには摩擦が大きく働き、1mくらいの人では問題ないのですが、1mmくらいの昆虫では、間接構造では動くことは難しくなります。昆虫は間接構造を基本的には使わない構造で羽ばたくことができるのです。大きさに応じた構造を生物は持っているのです。空気についても、小さな蚊にとっては、ネバネバしたハチミツぐらいの粘性を持つことになります。蚊はハチミツの中で数百回も羽ばたいているのです。大きさによって、このように働く力の関係もだいぶ違ってくるのです。同じ環境にいれば同じように環境を感じていると思っていたかもしれませんが、生物によって、ずいぶんと違った世界が広がっているのです。これまでのお話でおわかりのように、「環境世界」は動物によって異なっています。実は人それぞれでも少しずつ違っているのです。例えば、ここにリンゴがありますが、何色に見えますか? と聞くと、皆さんは「赤」と答えると思います。それを聞くと、皆さんで同じ「赤」という感覚を共有していると思い、安心するのではないでしょうか。でも、よく考えてください。このリンゴから反射した700nmくらいの波長の光が皆さんの網膜に届き、視細胞が反応することで皆さんは赤と認識するわけです。3.主観の世界と客観の世界ファイナンス 2024 Dec. 83
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