ファイナンス 2024年12月号 No.709
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( 東京大学 名誉教授 ( 東京大学 名誉教授 なぜ今、自然と共存する科学技術なのか東京大学 先端科学技術研究センター シニアリサーチフェロー)東京大学 先端科学技術研究センター シニアリサーチフェロー)講師演題はじめに転回は、次代を担う子供たちの育成のうえでも大切であることも述べたいと思います。先端研の大きな目標は「誰もが幸せになれるための新しい科学技術の開拓」です。様々な分野が協力して社会課題の解決に挑戦しています。研究所というと、通常は宇宙や地震、数学など、特定分野を研究するのですが、先端研のユニークなところは、カバーする分野が広く、理学から、医学、工学、情報、社会科学、さらにはバリアフリーに至ります。学際性が豊かな研究所なのです。現在、第6期科学技術イノベーション基本計画(2021年度~2025年度)が進行中です。この基本計画は、多様な人々のWell-beingの実現と、その実現に向けた人材育成という大きな方針で進められています。具体的には、人工知能やバイオテクノロジー、量子コンピューター、太陽電池、宇宙・海洋、環境・エネルギー、健康・医療、食糧問題といった分野が中心となっています。先端研の方向性を議論していた時に、私は「こういう方向性だけで本当にいいのでしょうか?」という疑問を教授会になげかけました。確かに重要なテーマばかりですが、人が自然を支配して利用することしか考えていないように思え、このような問題提起をしたのです。(注:以下「先端研」)は、まさに最先端の科学技術に本日のテーマは3つです。まず1つ目は「なぜ今、自然と共存する科学技術なのか」です。私の所属する先端科学技術研究センター取り組んでいる研究所ですが、私が所長のとき(2016年度-2021年度)、所のこれからの方向性として、自然と共存した持続的な社会の構築の重要性が議論され、その実現には、人間中心から自然中心への転回が重要と考え、所もその方向に大きく舵を切ることにしたのです。このセミナーでもまずは、このような視座の転回の重要性について述べたいと思います。2つ目は「自然の価値」についてです。人の視座から離れ、昆虫など人とは異なる生物の視座に立つことで「見えない世界」にある価値、新しい「自然の価値」が見いだされることを紹介します。3つ目は、「昆虫の知能はAIを超えるか」です。「見えない世界」の情報を適切に使うことで、現代の科学技術をしてもまだ解けない課題解決のヒントが得られることを紹介します。AI(人工知能)は、我々が知っている知識を統合しますが、知らない知識をAIは使えません。我々には「見えない」、「知らない」世界は、実は情報の宝庫なのです。その価値を知っているのは我々人間でなく、多くの生物、生命なのです。知らない世界には課題解決の重要な鍵が潜んでいて、それを使えば現代の科学技術だけでは解けない課題解決の糸口が与えられることを、匂いの検出と探索という難題を例に紹介します。また、このような人間中心から自然中心への視座の 80 ファイナンス 2024 Dec.1.東京大学先端科学技術研究センター2.日本の科学技術の方向性令和6年9月19日(木)開催財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute連載セミナー令和6年度職員 トップセミナー見えない世界に価値をみいだす見えない世界に価値をみいだす〜人間中心から自然中心への視座の転回〜〜人間中心から自然中心への視座の転回〜神﨑 亮平 氏 氏神﨑 亮平

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