【図表1】アジア太平洋における公的債務残高の動向(各グループ平均、対GDP比)150【図表2】 公的債務残高の変化(各グループ平均、対GDP比)30020010000SPOT中国インド日本(右軸)2008-2009年2010-2019年2020年2021-2023年アジア太平洋その他世界低所得国(出所)IMF「世界経済見通し」(出所)IMF「世界経済見通し」2007年10050先進国新興市場国4035302520151050-5-10-15アジア太平洋2023年低所得国太平洋島嶼国その他世界アジア太平洋その他世界先進国新興経済国筆者は2022年7月より、国際通貨基金(IMF)アジア太平洋局で勤務している。2024年9月、筆者が著者の一人を務めるペーパー「アジア太平洋における財政枠組みの強化」*1(以下「本ペーパー」)がIMFより公表されたことから、本稿では、その主な内容を紹介したい。なお、本稿で示す見解は筆者の個人的な見解であり、IMFやその理事会、マネジメントの見解を代表するものではない。アジア太平洋の各国・経済は、世界金融危機やパンデミック、その後の高インフレといった危機に際して、経済を安定させ、家計や企業を守るため、前例のない財政対応をとってきた。しかしながらその代償として、公的債務は上昇の一途をたどっている。中国の公的債務残高(対GDP比)は2007年から2023年の間に倍以上に増大し、日本では公的債務がGDPの各国の債務の動向を危機の前後で分けてみると、世界金融危機を乗り越えた後(2010-2019年)も財政赤字が継続し、債務が累増し続けたことが見て取れる異なり、パンデミック後(2021-2023年)も債務が減少していない。更に今後、多くの国が経済成長の低下と金利の高止まりを見込んでおり、財政をめぐる状況は厳しさを増している。こうした中、今後も起こり得るパンデミックのような大規模なショックに備えるとともに、高齢化や気候変動といった長期的な課題に対応するため、財政をめぐる枠組みはどうあるべきか、様々な場所で議論が行われている。本ペーパーはこうした背景の下、アジア太平洋において各国の財政政策がどのような役割を果たしてきたかを分析するとともに、地域が直面する課題を踏まえ、財政枠組みをどのように強化すべきかを議論するものである。本ペーパーでは、財政が経済の安定的な成長にどの程度寄与してきたのかを見るため、財政の反景気循環性(countercyclicality)、すなわち、経済成長が鈍化した時に財政赤字がどの程度拡大したか、また、経済250パーセントを超える状況となっている(図表1)。(図表2)。アジア太平洋の先進国では、他の先進国と 62 ファイナンス 2024 Dec.3.アジア太平洋における財政政策の役割1.はじめに2.財政をめぐる動向*1) Enrique Flores, Pranav Gupta, Yinqiu Lu, Paulo A Medas, Dinar Prihardini, Hoda Selim, Weining Xin, and Masafumi Yabara. “Upgrading Fiscal Frameworks in Asia-Pacific”, Departmental Papers 2024, 008(2024).国際通貨基金(IMF)アジア太平洋局審議役 矢原 雅文アジア太平洋における 財政枠組みの強化―最近のIMFペーパーより
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