SPOT(源氏物語を題材にした能の演目は多く、「玉鬘」もその一つ。)能樂圖繪 後編 上 - 国立国会図書館デジタルコレクション(ndl.go.jp)前回に続き、千年にわたって読み継がれる源氏物語とその物語の世界について、まずは物語の筋とともに当時の背景などをたどる。息子である帝の世となり、すでに最高位の太政大臣になった源氏の君は、お気に入りの女君たちを住ませる広大な邸を築いたところ。物語はその邸で始まった生活を中心に描かれる。源氏の君は短い逢瀬の後で物の怪の祟りによるのか急死した夕顔を忘れられない。その夕顔には右大臣妻の兄。)との娘がいると聞いているが、行方は知れない。その娘は乳母の夫が大宰少弐(大宰府の次官)となったのに連れられて、九州で育てられ、美しく成長。肥後の武士から言い寄られるのを体が不自由だといって、乳母らと共に海賊に脅えながら船で逃げて、都に来るが、頼るところもない。物語では地方の武士は野蛮な存在として描かれる。関東で平将門、瀬戸内海で藤原純友が乱を起こしたのは、物語が書かれる数十年前。それでも、摂関期を描くと「現在の学会でもこれを超えるものはない」という「日本の歴史5 王朝の貴族」によると、「当時の公卿たちは、なによりも京都の出来事に注意を払い、地方には関心を持たなかった。また、地方武士を極めて軽く扱い、合戦などと言うことはこれら地方の武士どもの仕事として、重視しなかった」といい、大陸から「刀伊」という集団が九州を襲っても、「なにか緊張感を持たず、よそごとのように冷淡に扱」って、撃退した功に対して、ろくに恩賞も与えなかったという。武士が殿上人となったのは、源氏物語が書かれてから、100年以上たった、平清盛の父、平忠盛が最初。神仏の加護を受けるため石清水八幡宮参りをすると、源氏の君に仕えている旧知の女房に遭遇。源氏の君は、女房から話を聞いて、実の娘として屋敷に住まわせる。源氏の君は姫にあって喜び、世間に知らせて男どもがよってくるのを見比べてやろうと企む。そこで「夕顔を恋続けている此の身は今も昔の私のままだけど (夕顔の子である此の娘は)どういう縁をたどって(実の父親の方へは行かないで)私の所を尋ねてきたのだらう」(谷崎潤一郎訳))と独り言。源氏の君は、完成した六条の院で初めての正月を過ごす。六条の院の規模は「四町ほどの土地」といってもピンとこないが、「王朝の貴族」によると、当時の貴族の邸宅、寝殿造の「基本形は、…一町四方(京の町は四十丈(約一二一メートル)ごとに縦横の路があり、その一マスを一町…、一町四方の敷地は約四五〇〇坪[約一万四八〇〇平方メートル]になる)の敷地北側の中央に寝殿があり、東西に対の屋があって、それらを広い渡殿でつなぎ、東西の対からは廊が南に出て、途中には中門を、南橋には吊り殿を置き、敷地の南側に池を掘り、中島を置き、橋を架け、船を浮かべ(かつての頭の中将。生涯の親友でライバル、亡き正 48 ファイナンス 2024 Dec.(22) 玉鬘「恋ひわたる身はそれなれど玉鬘いかなる筋を尋ね来つらむ」(23) 初音「年月をまつに引かれてふる人にけふうぐいすの初音きかせよ」元国際交流基金 吾郷 俊樹源氏物語とその世界(中)
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