る*37。副詞がない言語もあれば、形容詞がない言語もる*36。本稿第6回で触れたアダム・スミスの「道徳感SPOT語制言語の日本語と日本文化」日本語と英語の間、金谷、2019)*34) 大澤真幸、松尾豊、今井むつみ、秋田善美、2024、p116*35) 本稿第1回参照*36) 「オックスフォード哲学者奇行」児玉聡、明石書店、2022、pp285−87,292−93*37) 山口仲美、2023、p260−62*38) ニック・チェイター、2022,p248*39) 高島敏男、2001、pp30−31。文化人類学者のレヴィ・ストロースは、「中国はむしろ西洋に近い。西洋と真逆なのは日本である」としていた(「述*40) 「言語はこうして生まれる一即興する脳とジャスチャーゲーム」モーテン・H・クリスチャンセンとニック・チェイター、新潮社、2022、p131。*41) 「言葉は国家を超える」田中克彦、ちくま新書、2021、p107、129、136れば幸せな社会が築かれる。それが、「逝きし世の面影」で描かれていた江戸時代の社会だったと言えよう。江戸時代は、250年にわたって戦乱のない太平の世だった。遡れば、縄文時代は1万5000年にもわたって戦乱のない時代だったことが考古学上明らかにされている。縄文時代の終わりに大陸から新たな文明がもたらされて戦乱の時代になったのだ。縄文時代までの戦乱のなかった文明のDNAは日本語の中に深く組み込まれているはずだ。金谷教授が、日本語は地球を救える力を持っているとしているのも、そのようなDNAを持つ日本語が人々を幸せにするということであろう。そんなことを言うと、そんな哲学は日本語以外の言語の人には役立たないのではないかと言われそうだが、そもそも人間が言葉をしゃべれるようになったのは、先に見たように他の動物と異なり人間に他者の善意への信頼のようなものがあったからだ*34。日本語は、その原点を最もよく保存している言語に過ぎない。だから、外国人でも日本語を学ぶと「ふあーっとして心地よい」と感じるようになるのだ。日本の禅の思想が世界に広がっているのもそのせいだといえよう。禅には「不立文字」という考え方がある。そこには西欧流の「自我」はない。日本人の自立は、熊谷晉一郎氏が述べているように、たくさんのものに少しずつ依存できるようになることなのだ*35。日本語の「寄り添い機能」が、それを支えるようなものなのだ。それを「自我」が必要だなどといわれると不安になってしまう。そんなことを言う人に対しては、前回述べたスルー・スキルでやり過ごせばいい。英国の哲学者、デレク・パーフィットは、人格の同一性というのは0か1かではなく程度の問題で、自他の区別も強固なものではないと考えるようになった結果、「私は自分自身の生の残りを気にかけることが少なくなり、他の人々の生を気にかけることが多くなった」としてい情論」に通じる考え方といえよう。最後に、世界で多様な言語がある中での日本語の独自の立ち位置と言語学の現状について見ておくこととしたい。世界にどれくらい多様な言語があるかというと、アフリカのコイサン語族ではクリック音(舌打ち)が80種類もある。ピピル語では述語を先頭に持ってくる。ナバホ語では動物をランク付けしていあり、カナダの先住民族のストレイツセイリッシュ語では、名詞と動詞の区別さえないという*38。そのように多様な言語がある中で、実は日本語には親戚にあたる言葉はないのだという。中国語は支那西蔵語族でチベット語やタイ語、ビルマ語と同じ系統だ。英語は印欧語族でヨーロッパ全域からアジア西部までまたがる世界最大の語族に属する。ところが、日本語の系統は分からないという。ちなみに、あえて日本語と中国語と英語を比べると、中国語と英語にはかなり似たところがあり、日本語と英語の間にも少しは似たところがあるが、日本語と中国語の間にはほとんど似たところがないという*39。そのように多様な言語がある中、言語学では18世紀後半、自然も人間社会も単純なものから複雑なものへ発展するということで言語進化論が唱えられた。孤立語から謬着語に、そして屈折語に進化したというのである。中国語のような孤立語は、文法を表す専用の道具がなく品詞の区別もなく、ただ概念を表すための単語が「孤立」して並べられるだけの単純なもの。日本語のような謬着語は、それ自体の意味を持たず関係を表す専用の道具(テニオハなど)が膠(にかわ)のように付加されている。それが、欧米語のような屈折語になると、そのように付加されたものが一体化、融合して単語の形が変化する(格や時制など)ことで文法的機能を果たすようにさらに進化したというのだ。そのような言語進化論は今日では否定されている*40。その過程では、遅れているはずの謬着原理に基づいて、欧州語からエスペラント語が創られ*41、英語は歴 46 ファイナンス 2024 Dec.言語学の現状
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