ファイナンス 2024年12月号 No.709
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合, %)(2015年)4571241261231421362810359681034958104596810357表2.3: 各国の高校レベルの教育修了率(全労働力人口に占める割表2.4: ある人々の貧しい理由は何か(大きな影響、非常に大きな表2.5:過去、将来との比較(回答者の割合(%))アメリカにみる社会科学の実践(第三回)影響があると答えた者の合計、ランキング)364642343230367820042009n/an/a867779SPOT 20042009201459.657.916.18.3201404-14の平均202304-14の平均202372.476.569.538.868.873.066.647.05.14.08.427.12.72.34.416.6ファイナンス 2024 Dec. 37(出典)Rozelle(2020)に基づき、筆者作成(出典)liskyetal.(2024)に基づき、筆者作成(出典)liskyetal.(2024)に基づき、筆者作成人的資本 能力・才能 勤勉 高い教育経済制度 コネクション より良い機会 不正な経済制度家族的背景 裕福な家族 両親の高い教育 不正その他 運ずっと良い、幾分良いの合計-5年前と比べ、あなたの家族の経済の現状をどう感じますか-5年後、あなたの家族の経済状況は現在と比べてどうだと思いますかずっと悪い、幾分悪いの合計-5年前と比べ、あなたの家族の経済の現状をどう感じますか-5年後、あなたの家族の経済状況は現在と比べてどうだと思いますかトルコブラジルアルゼンチンメキシコ南アフリカ中国中所得国OECD加盟国がある。青年期を過ぎると、人的資本はほぼ固定してしまうが、ロジールによると、目先の利益の乏しい長期的投資という性格から中央・地方政府は教育の改善を先送りしている。デズワン・フー(Dezhuang Hu、武漢大学)らは、中国の家計の代表的サンプルを用い、中国の家計の教育支出が年間支出の7.9%にも上ると指摘している(Hu et al., 2023)。この数値は、韓国5.3%、日本2.2%、アメリカの1.8%に比べて突出して高い。中国の家計は教育費にあえぎ、さらなる負担の余地は限られる。フーコー(戸籍制度)が教育の普及の障害となっていると指摘するのが、ホワイトである(Whyte, 2019)。農村部の者が都市にやってきても、都市の社会的保護の対象にならず、その子女は都市の学校に入ることができない。親元を離れて農村に送り返されているが、農村での教育の機会は限られている。18歳までの子どもの70%以上が農村フーコーの保持者であるという。フーコーは無秩序な都市化を制御する機能を果たしてきたものの、いまや経済的にもマイナスの方がずっと大きいという。過少消費・過大投資という足許での経済モデルの行き詰まりにとどまらず、人口動態に由来する問題が今後険しさを増すなか、中国社会のなかで生まれつつある緊張を示唆するのが、ロジールとホワイトらの調査である(Alisky et al., 2024)。2004年、2009年、2014年とホワイトが実施した中国の人口の代表的サンプルに基づく社会意識調査を、彼らは2023年に再度実施している(n=32,625, 29省)。表2.4は、貧しい人たちはなぜ貧しいのか、その理由を訊いたところ、理由として挙がった項目のランキングを取ったものである。2023年の調査は2014年までとは明らかに回答傾向が変わっている。以前は能力や努力の欠如に求められてきた貧困の理由が、最近ではコネクションや家族的背景に求められるように変わった。表にはないが、富裕な人たちが富裕である理由についても、同様の変化がみられる。表2.5は、5年前と現在、現在と5年後の家族の経済状況が改善した(する)か、悪化した(する)かを訊く質問への回答状況である。2014年までの調査に比べ、良くなった(良くなる)という者が減り、悪くなった(悪くなる)という者が増加に転じている。ロジールとホワイトらは、不公平に対する民衆レベルでの怒りが爆発する水準にまで高まっているとはみていないものの、生活水準を持続的に引き上げるという共産党の指導の正統性が掘り崩されつつあるとみる。(3)「我慢すること」...ができるか社会科学者の間で交わされている中国がピークを迎えつつあるかという論議をどうみればよいのだろう。国際政治学者の間の議論は、中国の首脳の自国の発展/停滞に関する主観的認識に関わるものである。双方の論者が都合のよいステートメントを持ち出すことが

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