表2.2:中国の国有企業(SOEs、全4,000万社中)SPOT企業数362,693539,238628,554743,821866,757従前の定義(AIS)による国有企業391,490国の所有権の閾値100%50%30%10%>0%(出典)Allenetal.,(2022)より、筆者作成。優秀な人材の就職先は、その国の社会経済的な力の在り処を示唆する。バイ・チョンエン(Bai Chong-En、清華大学)らは、何百万人という大学入試の成績と就職先や企業レベルのデータをマッチングさせることで、中国で最も優秀な人材は起業する傾向が低いことを見出している(Bai et al., 2024, Economic Journal)。入試のスコアが1標準偏差分高いと、STEM(科学・技術・高額・数学)分野の学生で起業する者は13%減っていた。高い能力を持つ者はサラリーを得る部門、特に国に引き寄せられていた。ただし、能力の高い者が起業した企業はより早く成長し、上場する傾向があることも分かった。彼らの研究は、国がダイナミックで革新的な部門から人材を引き離していることを示唆する。これら二つの研究は、アメリカ人の目線からみると、中国がアメリカとは異なる官の存在感の大きな社会であるとの印象を与えるだろう。アメリカの社会科学者は中国の中長期的な姿をどうみているのか。人口減少、高齢化にとどまらず、人口の質の面でも中国は他国にない問題を抱えていると指摘する論者がいる。中国の人口は2022年からすでに減少に転じている。今後の動きを国連の予測でみると、2023年に14兆率は1970年代おわりには3.0を切り、2023年には年で12%の高齢化率(65歳以上の人口比率)がら産児制限を設ける努力をはじめ、1980年から35年間にわたって一人っ子政策を強制的に実施した。マーティン・ホワイト(Martin Whyte、ハーバード大学)によると、一人っ子政策を主導したロケット学者の宋建はマルサス主義に影響されていた(Whyte, 2023)。バート・ホフマン(Bert Hofman、シンガポール国立大学)は、中国の人口問題は運命ではないというみは困難であることを受け入れつつも、早期退職の見直し、教育投資の水準の引き上げを提案する。進展がみられないわけではない。退職年齢については、長らく待たれていた引き上げがようや動き出す。2024年9月、全国人民代表大会常務委員会が、法定退職年齢を15年かけて段階的に引き上げることを決めたところである(男性:満60歳から満63歳、女性:満50歳および満55歳からそれぞれ満55歳および満58歳に引き上げ)。他方、人的資本の改善の取り組みは遅々としている。スコット・ロジール(Scott Rozelle、スタンフォード大学)は、表2.3が示す通り、中国の労働ストックのうち高卒の教育水準に達した者の割合は30%に過ぎないと指摘する(Rozelle, 2020)。OECD加盟国の平均の78%に遠く及ばず、比較的最近の年齢コホートでも、高卒率は5割台にとどまる(2015年センサス)。人的資本の欠如はマクロ的な成長力の制約となり、経済のサービス化に必要なホワイトカラー層の創出を阻害する。他方、中国には高度な教育を受けた人々も存在する。中国の格差は、ジニ係数でみて1980年以前の0.3からすでに0.5を超える水準に上昇している。ホンビリ・リー(Hongbin Li、スタンフォード大学)らは、1988年から2018年の間で、トップ0.1%の所得は年12%増えたが、底辺の5%では年4.9%の上昇にとどまったことを明らかにしている(Li et al., 2023)。中国政府は共同富裕のスローガンを掲げているが、実体を伴わないとの指摘が多い。さらなる格差の拡大や、特に下位層の待遇の改善が滞ることになると、社会に緊張をもたらす恐れ 36 ファイナンス 2024 Dec.(2)中長期的な中国の姿2,300万人の人口が、2050年には中位推計で12兆6,000万人まで減少する(UN, 2024)。合計特殊出生1.0まで下がっている。人口の高齢化も進む。20202050年までには30%を超える。中国は1970年代か(Hofman, 2023)。ホフマンは出生率を反転させる試
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