ファイナンス 2024年12月号 No.709
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000SPOT 図図22..77:: 関関税税政政策策のの効効果果((実実質質GGDDPPののベベーーススラライインンかかららのの乖乖離離)) 図2.7:関税政策の効果(実質GDPのベースラインからの乖離)(a) 中国に60%の追加関税を賦課(中国が報復しない場合) (a)中国に60%の追加関税を賦課(中国が報復しない場合)al., 2024)。図2.7(a)は、中国に60%の追加関税を(ベースライン比▲0.9%)であるが、アメリカの2.2でみた第一次政権の貿易戦争の結果と同様である。0.6%超の負の影響を被る。経済学者はトランプの関税措置の案に対しては、サリバンらの政策以上に批判的である。ワーウィック・マッキビン(Warwick McKibbin、オーストラリア国立大学)らは、関税は中国経済を傷つけるだけでなく、アメリカにも害を及ぼすと指摘する(McKibbin et 課し、かつ中国が報復しない場合の実質GDPのベースラインからの乖離をみたものである。短期的には需要が動き、中長期的には生産が中国から離れ、アメリカだけでなく関税変更に直面しない他の国々へと移動する。GDPが最も大きく減少するのは中国であるGDPも減少する(▲0.2%)。なお、人民元の下落(実質実効ベースで10%)によって、当初は中国製品が他の市場で安くなるため、アメリカの中国への需要減を部分的に相殺することも勘案している。メキシコのような連結国と目される国が、利益を得ることは、図中国が報復する場合、中国とアメリカのGDPの減は一層拡大する(▲1.2%, ▲0.4%)。トランプは全世界に10~20%の関税を課すとも公約しており、この関税には、連結国が利益を得るのを妨げる効果がある。図2.7(b)は、全世界に追加で10%の関税を課す時のGDPへの影響をみたものであるが、メキシコが▲慎重論者のもうひとつのグループは、アメリカの相対的な力を慎重に見積もる国際政治学者たちである。ロバート・ロス(Robert Ross、ボストンカレッジ)は、バイデン政権は中国への包囲網を作りあげたが、韓国、フィリピン、台湾、ベトナムへの中国の経済的影響力を考えると、包囲網の持続可能性は疑わしいという(Ross, 2018)。アメリカは弱体化しつつあるパワーであり、中国経済に成長余力があることを踏まえると、中国を封じ込めるという困難な政策に固執するより、軍事力の再建に努めつつ、地域のデリケートなバランスを考慮した現実的な対応が必要だとする。欧州・ロシアの専門家として、オバマ政権でホワイトハウス入りした、チャールズ・カプチャン(Charles A. Kupchan、ジョージタウン大学)のほか、(次節で取り上げる)中国を専門とする国際政治学者の間には慎重な意見を持つ者が少なくない(e.g., Hass, 2024)。(4)小括民主党系と共和党系の論者を比較して注意を引くのは、相違点よりもむしろ共通点である。ともに自由貿易が労働者に損害をもたらしたという、オーターらの研究以降正統なものとなった理解から、労働者のための通商政策を志向する。パートナーとの連携を重視するか、デリスキング/デカップリングという言葉遣いに相違はあるものの、目立つのはアメリカの労働者の利害への関心という共通項である。党派間の違いがあらわれるのは、サリバンらを共和党系の古典的安全保障の論者と比較する時である。競争の管理と競争での勝利では目指すものが異なる。勝利を目標とする以上、より広範で深度のある戦略を持つ必要が生ずる。古典的0.2な安全保障からものをみる論者の方が、ライトハイザー0らよりもパートナーとの連携を重視する傾向がある。第二次トランプ政権の政策は、通商、安全保障、さらには財務省が目配りする市場といった複数の動因によって動かされることになり、その力関係と組み合わせに-1 32 ファイナンス 2024 Dec.0.2-0.2-0.4-0.6-0.8(出典)McKibbinetal.(2024)に基づき、筆者作成(b) 全世界に10%の追加関税を賦課(相手国が報復しない場合) 0.2-12024252627282930アメリカ31323334353637中国メキシコ日本-0.2-0.4-0.6-0.8202425260.2-0.2-0.4-0.6-0.8-138394020242526(出典)McKibbin et al. (2024)に基づき、筆者作成 27282930313233アメリカ中国27282930313233アメリカ中国34353637383940メキシコ日本34353637383940メキシコ日本図図22..77:: 関関税税政政策策のの効効果果((実実質質GGDDPPののベベーーススラライインンかかららのの乖乖離離)) (a) 中国に60%の追加関税を賦課(中国が報復しない場合) (b) 全世界に10%の追加関税を賦課(相手国が報復しない場合) (b)全世界に10%の追加関税を賦課(相手国が報復しない場合)

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