SPOT*5) 筆者と懇談した際、グリアは、ライトハーザーの下で働いた時期のことを教育的で素晴らしいものであったと述べ、ライトハイザーの著書を、今後の*6) この点、グリアもCHIPS・科学法を支持するとしている。*7) 2024年11月25日、トランプは、2025年1月の就任後に中国からのほぼすべての輸入品に10%の追加関税をかけると表明した。トランプの発表で*8) トランプは、2024年11月25日、メキシコとカナダに対して、就任初日に25%の追加関税を課す命令を出すと表明した。ただ、この発表も関税を移*9) 全世界に一律で関税を課す際には相対的に法的ハードルが高い。CRS(2024a)が国際緊急経済権限法(IEEPA)の活用を示唆するのに対し、川瀬(2024)は1974年通商法122条を示唆する。通商政策を考える際の必読の書であるとした。は、10%の関税を麻薬密輸と関連付けており、貿易政策との関連は不明である。民や麻薬問題と関連付けており、貿易政策との関連は不明である。Realignment, 2023)。ライトハイザーは、自身の政5)国家安全保障分野、デュアルユース品目等におけは、一次政権でライトハーザー通商代表の首席補佐官を務めた、ライトハーザーの右腕であり*5、以下、より詳細に展開されているライトハーザーの考えを参照する。ライトハイザーはNo Trade is Freeを著し、自身の考えを基礎づけるとともに、今後の中長期的な通商政策を提示している(Lighthizer, 2023a; the 策を「労働者中心(worker-oriented)な通商政策」と呼ぶ。自由貿易は間違ったコンセプトであるとし、通商政策は労働者階級の家族を支援することを中心に展開されるべきであるとする。経済的最適化はそれ自体悪いことではないとしても、人間は経済的価値のみで生きるものではなく、国家安全保障はもちろん、安全な環境、社会契約、家族やコミュニティの価値の方がずっと大切であると指摘する。オハイオ州の小さな工業都市で育った自身の生い立ちと重ね合わせ、製造業で働く家庭では子どもは親の仕事を誇りに思っていたとし、まともな仕事を平均的なアメリカ人に与えてきた製造業の復活を図る。ライトハイザーは中国との戦略的デカップリングを掲げる。具体的には、1)恒久的通常貿易関係(最恵国待遇)の撤回、中国からの全輸入品に対する追加関税措置を通じた貿易均衡の達成、2)戦略的依存の削減、3)二国間投資の削減、4)強力な輸出管理政策、る技術的相互依存の停止などを求めている。産業政策については、一般論として産業補助金は良いものではないとしつつも、AI、ロボット工学等でアメリカが負けるわけにはいかないとし、他国が補助している以上、アメリカも補助を出す必要があると主張する*6。トランプは選挙戦中、中国に60%の関税を課すと明らかにしている*7。矛先の向かうのは中国だけではない。アジアやアメリカ大陸諸国が連結国となり、米中貿易を間接的に媒介していることを先にみた。ライトハイザーはこの関係の是正を求める意向を示している(Lighthizer, 2023b)。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)では、発効から6年後(2026年7月)に共同でレビューを行うことにしている。そのレビューのなかで、連結国としてのメキシコのあり方が問題になる*8。また、ライトハイザーは、日本や欧州などの同盟国との貿易不均衡も問題視している。日本は中国と異なり、真の実存的脅威であったことはないとしつつも、著書では第一次政権での同盟国との交渉経緯に紙面を割いている。トランプの選挙公約では、全世界からの輸入に一律10~20%の関税を課すベースライン関税を導入するとしている*9。対中政策は、貿易のロジックだけで決まるわけではない。関税がアメリカ経済に悪影響を与え、株式・債券市場に響くことは、トランプの本意ではないだろう。財務長官に指名された、ウオール街出身のスコット・ベッセント(Scott Bessent)が、どう立ち回るのか注意を要する。古典的な安全保障のロジックの重要さは言うまでもない。第二次政権の国務長官に指名された、マルコ・ルビオ(Marco Rubio, 2023)は米中関係を対立関係として雄弁に語る(Rubio, 2023)。中国は、過去200年を除いて、人類が何千年も生きてきた場所に人々を連れ戻したいと考えており、その場所とは、個人が権利を持っているという概念が存在しない世界だとする。マシュー・ポティンジャー(Matthew Pottinger、一次政権の安全保障担当大統領副補佐官)は必ずしもトランプの忠臣ではないが、共和党の関係者から高い評価を得ている論者であり、彼のマイク・ギャラハー(Mike Gallagher、元下院中国特別委員会委員長、共和党)との共著論文No Substitute for Victoryは、サリバンらのCompetition Without Catastropheと好対照をなしている(Pottinger and Gallagher, 2024)。彼らは、アメリカに必要なのは、米中競争を管理することではなく、競争に勝利することであると主張する。中国の指導部はすでに冷戦を開始しており、冷戦が存在しないふりをすることは却って熱い戦争をもたらすと警告する。中国が台湾での戦争の準備を進めるなか、直ちにインフレ調整後の国防 30 ファイナンス 2024 Dec.
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