SPOT 図2.6: 中国、アメリカ、欧州におけるハイスキル/ハイテク製品の輸入元の集中度の推移(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)アメリカにみる社会科学の実践(第三回)(注)輸入元の国・地域の輸入シェアを二乗して合計したもの。名前を挙げた国・地域はシェアで10%以上の国・地域。(出典)LovelyandYan(2024)しかしながら、サリバンらのアプローチは現実からの試練に晒されている。2024年4月、イエレンが訪中し、一部製品での中国の過剰生産の問題を指摘した。通商代表部は、同年5月、多額の補助金を通じた過剰生産などの中国の不公正な貿易政策・慣行から自国の労働者を守るため、通商法301条に基づいて、これら一部製品の関税引き上げる案を明らかにし、同年9月から実際に適用を開始した。EVへの関税を100%に引き上げるほか、リチウムイオン電池、半導体、太陽電池、鉄鋼・アルミ、フェイスマスク、医療用手袋などに関税措置を講じた。自動車については、コネクティッドカーに安全保障上の懸念があると指摘し、中国製EVを国内に入れまいとする動きを強めている。これらの措置は不公正な補助金、安全保障という根拠を示しており、通商法301条による措置は的を絞ったものとの評価もあるが、太陽電池、鉄鋼・アルミなどの措置は戦略性が乏しいとの指摘もある。安全保障上のリスクの外延を定めることは一筋縄ではいかない。パートナーたるべき欧州(EU)との足並みが必ずしも揃っていないことは、今後の火種になりうる。欧州も中国製EVに関して、2024年10月、追加の関税措置を決めている。ただ、今後5年にわたり、従来の10%に7.8-35.3%上乗せし、最大45.3%の関税を課す程度にとどまる。欧州は中国市場への依存度が高く、中国に厳しい措置を取りにくい。むしろ中国からの直接投資を受け入れ、欧州でのEVの現地生産を促す志向を強めている。メアリー・ラブリー(Mary Lovely、PIIE)らは、マクロでみても、アメリカと欧州は中国との貿易で相反する動きしていると指摘する(Lovely and Yan, 2024)。集中度を計測するハーフィンダール・ハーシュマン指数を用いて、中国、アメリカ、欧州の全輸入における集中度の推移をみると、2018年の米中貿易戦争以降、中国とアメリカが全体的に輸入集中度を下げ、特にアメリカは中国からの輸入集中度を急激に落としている。他方、欧州は全体としての輸入集中度を上げ、そのなかでも特に中国からの輸入への依存を高めている。図2.6はハイスキル/ハイテク製品についてみたもので、ここでもアメリカは中国への集中度を下げている(855→289、2018→2023年)が、欧州はあげている(682→758)。この違いは、中国への安全保障上の措置を検討する際、米欧で機会費用の計算が異なることを意味する。米欧間の離断は、地政学上の競争における中国の基本戦略である。(2)共和党系共和党は第一次トランプ政権で米中貿易戦争の幕を開け、第二次政権でふたたび政策の主導権を握る。トランプはジェイミーソン・グリア(Jamieson Greer、King & Spalding)を第二次政権の通商代表に指名している。グリアは、2024年5月の公聴会で、有害なものであった以前の対中貿易政策が一次政権のもとで変わりはじめたと述べている(Grerr, 2024)。グリアファイナンス 2024 Dec. 29
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