(b)アメリカ発投資先(outbound)SPOT 図2.5: 近接国間での直接投資の割合(縦軸:線,地政学的距離;点線,地理的距離)アメリカにみる社会科学の実践(第三回)(注)2020年、2017年の計数に基づき、経年変化を比例的に調整した。(出典)BEA(2018,2021,2024)に基づき、筆者作成。(出典)Aiyaretal.(2024)に基づき、筆者作成。図2.4:アメリカと各国・地域間の直接投資(2014-2023年、10億ドル、対数表示)(a)対アメリカ投資元(inbound)復が困難であることを受け入れ、中国の抑止に集中すべきであると提言していた(Campbell and Sullivan, 2019)。サリバンらは、多くの相違点にも関わらず、米中は共存する必要があると指摘し、共存とは、競争を解消すべき問題としてより、むしろ管理すべき条件として受け入れることを意味すると指摘した。サリバンがその考えを具体的に展開したのが、大統領補佐官としての任期の中途(2023年4月)にブルッキングスで行った演説である(Sullivan, 2023)。演説でサリバンは、新たなワシントンコンセンサスが必要だと打ち上げた。従前のコンセンサスのもとで、アメリカの産業基盤は空洞化し、経済統合を進めれば、中国がより責任ある国になるとの想定は裏切られ、地政学的競争にアメリカをさらしてしまったと指摘した。(オーターらの研究を意識しつつ)チャイナショックへのアメリカの備えは不十分なものであったし、現在も十分な対応がなされていないとする。サリバンは、中産階級のための外交が必要であると説き、産業政策によって産業基盤を築き、サプライチェーンの強靭化を図り、高い柵で囲われた小さな庭(スモールヤード・ハイフェンス:small yard, high fence)によって基盤技術を保護する必要があると訴えた。サリバンの考えはバイデン政権のなかで広く共有されていた。彼の演説の前の週、イエレン財務長官が類似の演説をジョンズ・ホプキンス大学で行っている(Yellen, 2023)。イエレンは中国に対するアプローチの目的として、1)国家安全保障上の利益及び人権擁護、2)健全な経済競争、3)気候変動などの喫緊のグローバル課題における協力の三点を挙げ、中国経済からのデカップリング(切り離し)を求めていないと述が中国のウエイトに比べて僅かであることを確認している(McGuire et al., 2024)。米ドルは国際通貨として強固な地位を維持している。ただし、留意すべき動きとして、ロシア制裁を横目に、中国が(将来的にありうる)対中金融制裁を回避しうる国際的な送金手段の開発に取り組んでいることである。この点について、第四回で対中制裁に関するアメリカでの議論を取り上げる際に検討する。(1)民主党系地経学等を巡るアメリカの社会科学者たちのアプローチは三つ巴の状況にある。サリバンが代表する民主党バイデン政権によるもの、共和党系の論者によるもの、そして、地政学的措置に慎重な論者がいる。サリバンは政権入りする前から、カート・キャンベル(Kurt Campbell、のちに国務副長官)とともに、Competition Without Catastropheと題した論文を発表し、アメリカはアジア地域での対中軍事的優位の回3.競合するアプローチファイナンス 2024 Dec. 27
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