SPOT(注)短い折れ線がウクライナ侵攻から現在までの経緯、長い折れ線が1947年を起点とした冷戦開始期の経緯を示す。(出典)Gopinathetal.(2024)図2.3:陣営間貿易の増減(a)東西間貿易(b)非同盟との貿易2023年、対数表示)。(a)の示す通り、期間の当初、2020年以降では5割を超えていることを見出した(図2.5, Aiyar et al. 2024)。地理的に近い国の間よりも、資金面での動きはどうか。図2.4は、(a)対米直接投資の投資元(inbound)と、(b)アメリカ発の直接投資先(outbound)の推移をみたものである(2014-中国・香港からの対米投資が急伸した後、2017年から足踏みに転じ、2020年代に入って減少に転じている。当初の急伸がFIRRMAの制定を誘発し、その後、投資が減少に転じたとのストーリーに合致する。他方、中国・香港以外の国・地域からの投資は着実に伸びている。(b)では、アメリカ発の対中国・香港向け投資が、2020年まで着実に増加し、その後、横ばいとなり、2023年に大きく減少したことが示されている。他の国・地域への投資は、増加ないし横ばいで推移している。総じていうと、アメリカの同盟国・パートナーとの投資が活発化する一方、中国との投資は増加から横ばい、減少へと転じている。ラテンアメリカ・西半球、シンガポールといった非同盟の国・地域との投資が活況を維持していることは、貿易と同じ傾向である。世界的にも同様の動きが確認できる。シェカール・アイヤル(Shekhar Aiyar、ジョンズ・ホプキンス大学)らは、地政学的距離と直接投資の関係を分析したところ、地政学的に近い国の間での投資が、2003年には4割程度であったのが次第に上昇し、地政学的に近い国での投資の方が多く、その差は次第に拡大している。彼らは、半導体等の戦略的セクターへの投資では、地政学的距離の近い国での投資への偏りがより大きいことも指摘している。地政学的分断は、銀行を通じた資本移動にもあらわれている。ゲッツ・ファン・ペーター(Goetz von Peter、国際決済銀行)らは、国際間の銀行債権の伸びを被説明変数とし、地政学的距離で回帰すると、地政学的距離が拡大しつつある国の間で資本移動が減っていることを見出している(Goetz von Peter, 2024)。貿易や資金の分断化にも関わらず、分断が米ドルの地位にマイナスの影響を与えている証左はこれまでのところない。ロシア制裁の一環で、アメリカと同志国はそれぞれの法域でロシア中央銀行が持つ外貨準備を凍結している。この措置は準備通貨としての米ドルの地位を損なう方向で作用しうる。しかしながら、外貨準備に占める米ドルのシェアは、ウクライナ侵攻勃発時(2022年第一四半期)が59%であったのに対し、直近(2024年第一四半期)でも同水準となっている。ロバート・マコーリー(Robert Mccauley、ボストン大学)らは、侵攻前のサンプルに基づいて米ドルのシェアを予測するモデルを作成しているが、その予測値と実績にも乖離がみられないという(Mccauley et al., 2024)。パトリック・マグワイア(Patrick McGuire、国際決済銀行)らは、貿易のインボイス、外貨準備、対外債務、国際銀行債権、国際債券、外貨取引高など通貨の多面的な活用状況を検討したところ。米ドルとユーロがGDPや貿易の世界シェアを越えて引き続き用いられているのに対し、人民元の利用 26 ファイナンス 2024 Dec.
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