ファイナンス 2024年12月号 No.709
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図2.2: (a)アメリカの輸入元の国・地域毎のシェアの推移、(b)2017年末から2024年半ばまでの期間にの*4、(a)は東西ブロック間の貿易が現在までに冷戦SPOT おける輸入元シェアの変化率(%)アメリカにみる社会科学の実践(第三回)(出典)Aguilaretal.(2024)(a)*3) 貿易戦争後、メキシコやベトナムへの対中輸出が増えていることも報告されている(Alfare and Chor, 2023)。*4) 世界の財貿易のGDP比は、1947-1952年では14%に過ぎなかったのに対し、2019-2023年には44%にもなる(Gopinath et al., 2024)。(b)にも安全保障の観点から規制の網を広げている。2024年9月、BISはネットに接続するコネクティッドカーの輸入・販売を順次禁止することを発表した。資金面でもさらなる規制強化が図られている。CFIUSとは逆に、アメリカから中国等への投資を規制する枠組みが2025年1月にはじまり、AI、半導体、量子技術に係る投資が対象となる。アメリカ国内でも資金の潤沢な中国への投資規制の意義を問う声はあったものの、資金提供を期に技術が流出することへの懸念に基づく措置と説明がなされている。これら中国をターゲットとする規制強化の傍らで、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻を契機に、ロシアに対する前例のない大規模な経済・金融制裁が措置されている。ロシア侵攻への態度の相違を通じ、世界はアメリカを中心とする陣営、中国やロシアを中心とする陣営、グローバルサウスへと色分けが進んでいる。(3)世界経済の変容アメリカの政策転換は世界経済のあり方を変容させている。データの示すところによると、世界経済は分断の初期段階にある。ただし、二極の間を連結する国(connectors)の存在により、現在のところ両極間の取引が維持されている。アナ・アギラール(Ana Aguilar、国際決済銀行)らによると、貿易戦争以降、アメリカの輸入元に大きな変化がみられる(Aguilar et al,, 2024)。図2.2の(a)は、アメリカの輸入元の国・地域毎のシェアを示したもので、2018年以降、中国(CN)のシェアが急速に低下し、近年ではメキシコ(MX)に抜かれている。(b)によると、2017年末から2024年半ばまでの期間におけるアメリカの中国からの輸入シェアは21%減少している。市場シェアを最も伸ばしたのはアジア諸国で、ベトナム(66%)、シンガポール(38%)と続き、アメリカ大陸では、コスタリカ(31%)、ドミニカ共和国(9%)となっている*3。ギータ・ゴピナート(Gita Gopinath、IMF)らは、国連での投票行動に基づき、世界を西(アメリカ等)、東(中国、ロシア等)、非同盟に区分し、その間をまたぐことで貿易がどの程度増減へと傾くか(半弾力性)の推移(四半期毎)を検証している(Gopinath et al., 2024)。図2.3は、ロシアのウクライナ侵攻後と、冷戦開始(1947年)後の推移を比べている。現代は冷静開始期よりも経済統合の水準が高いことに注意を要するもの開始期よりも急に縮小していることを示す。(b)は非同盟との貿易を示し、冷戦期に比べて非同盟との貿易が堅調であることを示唆する。この発見は、メキシコやベトナムなどの連結国を介して、米中がつながるというアギラールらの分析と一致する。ファイナンス 2024 Dec. 25

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