ファイナンス 2024年12月号 No.709
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SPOT21.1%まで上がった(Bown, 2023)。関税措置は中国25%、アルミ10%の関税措置を課している。日本の1万1千ドルの優遇措置をつけている。(2)安全保障環境の変化頭時点で、それぞれ3.1%、8.0%であったアメリカの対中関税、中国の対米関税(加重平均)が、19.3%、相手だけとは限らない。2018年3月には1962年通商拡大法232条に基づき、欧州や日本に対し、鉄鋼目線から大きなことは、就任早々にトランプが、オバマ政権下でアメリカ自身が中心になってまとめた、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定からの離脱を決めたことである(2017年1月)。バイデン政権は、第一次トランプ政権に比べ、同盟国・パートナーへの関税措置には慎重で、中国への関税措置も的を絞ったものとするよう努めたことは認められる。ただ、保護主義への傾斜は引き継がれた。対中関税は、アメリカ国内のインフレが昂進した時期に引き下げを検討との報道は出たものの、そのまま維持された。2024年9月には、不公正な補助等を受けて過剰に生産されているとの認識のもと、中国製電気自動車(EV)などに対する通商法301条に基づく関税措置を導入している。過剰生産の問題は、マクロの過小消費、過剰投資という中国の経済モデルへ異議申し立てという性格を持ち、かつての日米摩擦を思わせる制度間の相克の様相を呈する。同盟国・パートナーにとっては、CPTPPへのアメリカの復帰がなかったことは失望であった。2022年から始められたインド太平洋経済枠組み(IPEF)からは貿易アクセスの議論が欠落している。2022年に成立したインフレ抑制法は、アメリカでのEV製造を優遇し、一台当たり最大大国間の競争関係への経路のうち二番目は、アジア太平洋地域でのアメリカの軍事的優位の揺らぎによる。中国は2012年から「中華民族の偉大な復興」を掲げ、世界的な野心を隠さなくなった。そのなかで、アメリカの危機感を端的に表明したのが、2021年の3月のインド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン(Philip Davidson)司令官による、上院軍事委員会公聴会での「2027年までに、中国が台湾を侵攻する可能性がある」との発言である。軍事的な抑止力を高めることと併せ、安全を確保するために経済的手段を動員することが増えている。その目的は、情報システムの安全性を高めることや、軍事転用可能な先端技術を保護することで中国への技術的アドバンテージを維持することである。第一次トランプ政権のもとでは、中国通信機器大手のファーウェイに対し、サプライチェーンを分断する措置が講じられた(2020年5月,8月)。ファーフェイの半導体設計を手掛ける傘下企業と受託製造を担う台湾のTSMCの間の取引を遮断し、さらに、オランダやアメリカ企業の生産する半導体製造装置の中国系ファンドリーへの供給を停止した。ファーウェイへの措置で興味深いことは、外国直接製品ルール(FDPR:Foreign Direct Product Rules)と呼ばれる、輸出規制の域外適用を活用していることである。アメリカ国外で製造された製品であっても、アメリカの技術等が用いられている限り、輸出に商務省産業安全保障局(BIS:Bureau of Industry and Security)の許可を得る必要があるというものである。FDPRにより、台湾やオランダ企業と中国企業との間の取引を遮断することが可能となる。さらに、安全保障上重要な半導体の国内製造を進めるため、2020年5月にはTSMCの工場をアリゾナに誘致することに成功した。資金面でも重要な進展があった。2018年8月、外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA:Foreign Investment Risk Review Modernization Act)が成立し、対米外国投資委員会(CFIUS:The Committee on Foreign Investment in the United States)の権限強化が図られた。従前のCFIUSは、外国投資家がアメリカ企業を支配することになる取引の審査を行うものあったが、FIRRMAによりアメリカ企業を支配する取引以外へと対象を広げ、具体的には、一定の不動産取引、重要インフラ及び技術等に対するマイノリティ投資も規制の対象となった。バイデン政権は第一次トランプ政権の施策を継承し、対中軍事バランスに直結する技術的優位を維持するための施策を組織化していった。2022年10月、中国が先端半導体を使って軍事技術を高度化しないよう、半導体関連の輸出規制を導入した。半導体製造装置等に関する対中輸出を許可制とし、日本やオランダといったパートナーとの連携を深めている。国内製造基盤の強化にも、一層包括的に取り組んでいる。本稿の経済・財政の議論でみた通り、半導体についてはCHIPSおよび科学法が国内製造に補助をつけている。自動車 24 ファイナンス 2024 Dec.

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