ファイナンス 2024年12月号 No.709
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「脱炭素チャレンジカップ2024授賞式」「エンゲージメントパートナー締結(福島県□葉町)」各地の話題連載各地の話題4. エンゲージメントパートナーとともに未来をつなぐ3.小さな島の挑戦【再エネ×水素】の上昇等海洋環境の変化により、魚の住家となる藻場が消失し、漁獲量が著しく減少しているのです。気候変動が、最早、危機的な状況であることを認識した壱岐市は、共にSDGsに取組むパートナーからの助言を受けて、令和元年9月に国内の自治体に先駆けて「気候非常事態」を宣言しました。SDGs未来都市計画も気候非常事態宣言も持続不能な未来への危機感から生まれ、島を未来へつなぐ決意を示すものでした。壱岐市の気候非常事態宣言では、2050年までに島内の再生可能エネルギー導入率100%達成を目指しています。壱岐市は、九州本土との電気の接続が無く、島内の火力発電所で発電した電気を使っています。再生可能エネルギーとしては、現在、太陽光と風力を発電に活用していますが、不安定な再生可能エネルギーを現状以上に導入することは、非常に難しい状況です。そこで壱岐市では、再生可能エネルギーを水素貯蔵と組合せて安定化させ、導入拡大を図る実証試験にチャレンジしています。日中は太陽光発電の電力を対象施設に供給しつつ、余剰電力で水を電気分解して水素を製造貯蔵し、夜間や天候不良時は、蓄えた水素を使って燃料電池で発電し、対象施設に電力を供給するというシステムを使った実証試験です。実証試験の対象施設は、民間のトラフグ陸上養殖場ですが、こちらの養殖場自体、低塩分地下水での陸上養殖という、世界でも先駆的な養殖方法を採用していることに加え、飼育水の再利用などサスティナブルな取組を実践されています。この実証試験の特徴は、ズバリ「もったいない」です。実証試験では、対象施設への太陽光発電と水素発電での電力供給に加え、システムの副産物である「酸素」や「排熱」も無駄なく利用します。水の電気分解時、水素と共に発生する酸素は、養殖魚の飼育水槽への給気や、飼育水の再利用時の生物ろ過に活用します。また、水の電気分解装置や燃料電池から発生する排熱は、飼育水槽の温度調節に利用し、養殖魚の成長促進に役立てます。地場産業との連携で、地域振興にも資することを目論んでいるこの取組は、「もったいない」精神と脱炭素に関するチャレンジングな姿勢が評価され、環境省などが後援する「脱炭素チャレンジカップ2024」にて最高位の環境大臣賞グランプリを受賞しました。「再エネ×水素」の取組には、東京大学先端科学技術研究センターにも関わっていただいていますが、壱岐市のSDGs推進の様々な取組では、外部からの多様な知恵を積極的に活用してきました。そして、今、壱岐市では「エンゲージメント」という「つながり」に着目したまちづくりを進めています。壱岐市への共感や愛着を持ち、地域に対しての主体的な貢献を通じて、お互いのあるべき姿を実現していける企業、大学、自治体などと、エンゲージメント 102 ファイナンス 2024 Dec.

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