連載各地の話題 敦賀市ちえなみき(世界知・文脈棚)5. 新幹線開業効果と今後の波及的4. ちえなみきの特徴・リアル書店の価値展開応できる点がある。また、近隣の市立図書館との棲み分け(ターゲット層の違いや静謐環境に囚われない振る舞い、コミュニケーションを伴う多様な学習環境等)や駅前の都市機能改善も大きな要因としてある。これらに通底するのは、「本には集客力があり、賑わいを生み出せる」という考えであり、多くの先進地視察を経て実感を伴い見出してきた結論である。「ちえなみき」を「ちえなみき」たらしめる根幹は、「選書」と「空間構成」の独自性にある。入館してひときわ目を引くのは、世界樹をモチーフとした空間であり、吹き抜け空間に本棚が無数に枝を伸ばしている。その主となる1階部分には、「世界知」と呼ばれる、人類の叡智を辿る文脈棚(3つのステージに42のテーマが紐づき、直感的な文脈のつながりを持って構成された棚)が凝縮され、古典、ロングセラー、絶版本、絵本などが、古書・新書を問わず、テーマ毎に沿って並ぶ。世界知に足を踏み入れると、世界樹の有機的な本の並びに相まって、枝のような書棚の間を分け入っていく空間体験を堪能しながら、知の深淵に触れることができる。世界知に隣接して、地元の老舗日本茶店が経営するカフェも併設され、利用者は、香ばしい茶の香りが漂う書籍空間に包まれながら、館内の全ての本を読むことが可能となっている。2階には、「日常知」として気軽に読めるテーマで並ぶエリアなどがあり、隣接して勉強やイベントに利用可能なスペース「セミナー&スタディ」が展開する。また、親子連れが一緒に絵本を読んだり、知育玩具で遊べる「絵本ワンダーランド」など、親和性の高いエリアが有機的にゾーニングされ、子どもの微笑ましい会話が聞こえるなど、適度なざわつきを見せる。本を手にとって家族や友人が会話を弾ませる光景や、週末になると三世代家族のような大人数で本についての会話をしながら店内を歩く姿をよく見かける。時折、若いカップルが椅子に座りながら一冊の本を挟んで笑顔を交わす姿も微笑ましい。こうした「ちえなみき」の特徴は、リアル書店以外に体験することは難しい。そこには、生き生きとした日常の振る舞いがあり、本を介することで生まれる代替不可ともいえる価値がある。緩やかな賑わいが空間を包み込み、読書の振る舞いや寛ぐ佇まいが風景として溶け込んでいる。そして、自身の好奇心に身を委ね、その先に潜む本との偶発的な出合い(セレンディピティ)を、五感を通して楽しむことができる。お目当ての本を探す行為ではなく、うねる本棚の密林を進み、変容する景色の中で、棚面を流れる相互連鎖的な本が奏でる文脈に誘われて、奥へ奥へ導かれていく。そんなリアル書店でしか味わえない体験価値が「ちえなみき」には潜んでいると思うのである。まるで、「本のまち」を歩いているような空間体験に、僅かでも知のわくわくを感じとってもらえたら望外の喜びである。是非、本を介した知の諸相に耽溺していただきたい。北陸新幹線開業から半年が経過したが駅前西口周辺は変わらず活況を呈している。「ちえなみき」の新幹線開業前後の来館者数を前年同期6か月分(3月16日~9月15日)で比較すると、開業前は月平均2.3万人に対し、開業以降は月平均4.1万人となり、約1.7倍となっている。市内の観光施設(計7か所)を同期間の前年同期で比較すると、全体として約1.5倍の数値を記録している。この開業効果による賑わいを一過性として終わらせず、最大化し、持続させることが今後の課題である。その課題に対して取り組んでいる事案として、氣比神宮周辺、そこに繋がる商店街エリア、ファイナンス 2024 Dec. 97
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