PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 37 ファイナンス 2024 Nov. 87*3) 政府税制調査会(2023)「わが国税制の現状と課題―令和時代の構造変化と税制のあり方―」,P.2453. 政策担当者や一般の読者に伝えたいこと大野論文は、貨幣および国境の両観点にまたがるもので、EUの暗号資産取引に関する当局間情報交換を検討しています。日本では令和6年度税制改正で非居住者暗号資産取引情報報告制度が法制化されましたが、これに先行するEUとの比較を可能にしています。藤原論文は、国境という観点に関するもので、EU付加価値税の課税権配分について欧州司法裁判所の動向を中心に論じています。中村論文は、国境および法の支配の観点に関わるもので、二つの柱から成る新たな国際合意について、紛争解決の面で多くの課題が残っていることを具体的に示しています。野田論文は、法遵守の観点から、重要性を増しているマネロン対策と税務の交錯領域の課題を浮き彫りにしています。それぞれが力作で、読みどころのある論文となっています。本特集号でも注目されているデジタル化ですが、今後税務執行を確実に行うために、行政はさらなる社会的基盤(例えばe-Taxのようなインフラや、法人の電子申告の義務化といった法整備)を整えていく必要があるかと思います。今回の特集号を通じ、政策担当者に対しては、どのようなことを期待されていますか。税務執行については、新しい議論が続々と登場しています。政策担当者の皆さまには、まずはそのことを共通認識としていただきたいです。例えば、去年の6月に政府税制調査会が出した答申には、納税環境整備について論じている箇所があります。そこでは、OECDの「税務行政3.0」という報告書が引用され、納税手続きが事業者の日常業務の中にシームレスに組み込まれるという将来像について言及しています。*3こういった将来像を実現するためには、確定申告の時点だけを見ているのでは足りず、日々の取引情報をリアルタイムで共有するインフラが必要になってきます。そこまで進めていくためには、セキュリティの確保や営業秘密の保護といった、法制面でクリアすべき課題が多いところです。さらにそれらは国境を越えて生ずる課題でもあるため、議論すべきことはたくさんあります。次に、少し角度が変わりますが、政策担当者に限らず、税務執行に関わる皆さまに対しても、期待したいことがあります。私の取り上げたFTAの報告書は100本以上ありますので、これらを通覧して何がどう論じられてきたかを全体的にご覧になった方は、あまりいないのではないかと思います。ですが、読んでみるといろいろと良いことが書かれています。例えば、アウトカムとアウトプットの違いです。このことを税務調査の例で申しますと、アウトプット指標の典型が増差税額で、税務調査を行った結果、いくらいくらの税額が過少申告されていたことが判明した、というものを指します。これに対してアウトカムというのは、納税協力を改善すること自体を意味しています。このようにアウトカムとアウトプットは違うわけですが、FTAの報告書は、当座のアウトプット最大化よりも、むしろ納税協力の改善というアウトカムの方がより重要な目標なのだと明言しています。100本以上ある報告書の現物を読むことは大変かもしれません。しかし、私の要約をちらっと見るのは簡単です。お忙しいこととは存じますが、ご覧いただく機会があれば幸いです。税務執行の重要性というものが、本特集号では繰り返し強調されますが、一般の国民の間にはまだあまり浸透していないように感じます。納税者に対して、税務執行の重要性を当事者として意識してもらうには、どのようなアプローチが必要だとお考えでしょうか。確かに、国民一般ということになりますと、必ずしも十分に税務執行の重要性が浸透していないのではないかという感じがします。もしかしたら違う感じをお
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