ファイナンス 2024年11月号 No.708
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*1) Forum on Tax Administration、OECD税務長官会議*2) Margaret Levi(1988), Of Rule and Revenue, University of California Press2.各論文の読みどころ本特集号においては、テーマである「21世紀の課税と納税」について議論するにあたり、「法の支配」、「貨幣」、「国境」、「法の遵守」の4つの観点が挙げられていますが、これらの観点を挙げるに至った過程について、伺えますでしょうか。その上で、各論文の読みどころについて、ご紹介いただければと思います。税務執行という、とても広く定義した大きな傘の下で、見識の高い方々がそれぞれ問題・関心を持ち寄った結果、今回の4つの観点のようなまとまりが自然にできてきました。こういったまとまりは、問題意識の共有にはじまり、研究会の継続的なオンライン開催、論文検討会議における活発な質疑応答、といった機会があって初めて具体化したものです。財務総研のスタッフの皆さまや、執筆者の皆さま、ゲストとしてお越しくださった皆さまのおかげで、多大なインスピレーションが得られました。東京大学の藤谷武史教授には全体を通じて伴走していただきました。お世話になった皆さまに、この機会を借りてあつくお礼申し上げます。各論文は、こういった過程を経て、それぞれの執筆者の責任で取りまとめています。巽論文は、法の支配の観点から、憲法原則である合法性原則について、課税庁の調査義務の限界という新しい視点を打ち出しています。行岡論文は、貨幣の観点から、私的主体が発行する貨幣の価値の安定性確保につき、論点を整理し、ステーブルコインに関する規制のあり方を問い直しています。 86 ファイナンス 2024 Nov.が特定プラットフォーム事業者を介して行う電気通信利用役務の提供につき消費税法を改正しました。本特集号では、序文にもあったように、税務執行が多面的かつ複雑な対象であるとした上で、各論文において、研究対象とする各制度の抱える問題について、歴史的な背景にも焦点を当てていたところが印象的でした。特に、増井先生の執筆された「納税協力と非協力」という論文においては、FTA*1の報告書について、過去100本以上の報告書を整理されていましたが、税務執行のあり方について考える上で、このように歴史的な変遷をたどることの重要性について、お考えを伺えますでしょうか。歴史はとても大事ですよね。税務執行の歴史は政治共同体の成立にはじまります。スタンフォード大学のマーガレット・レヴィ教授の書物は、古代ローマの徴税請負や、18世紀末英国の所得税創設などを素材にして、「準自発的コンプライアンス(quasi-voluntary compliance)」という概念を当てはめて説明しようとしています。*2日本でも歴史上いろいろなことが起こりました。明治初年に地租改正が行われた際には農民暴動が起きました。第二次世界大戦直後には税務行政が大混乱しました。このように多くの試練を乗り越えてきています。こういった歴史を踏まえてこそ、どういう条件が揃えば税制が成功するのか、あるいは失敗するのか、ということを検討できる。だからこそ、歴史は大切です。私自身の論文は、たかだか20年という短い期間における特定領域の文献をさらったに過ぎません。それでも、この間に各国課税当局のアプローチが目に見えて進化してきたことがわかりました。

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