令和6年度職員トップセミナー ファイナンス 2024 Nov. 832.85歳以上の人が持つ心理的特性老年的超越を目指して1.老年的超越とは老いとは、利己から利他への意識の変化、社会貢献のために獲得されたヒトだけの特徴であり、老いた人が集団に必要だったのです。ここから最後のテーマである「老年的超越を目指して」について話をさせていただきます。役割があったので、年長者は長生きになってしまったのです。長生きの人がいた方が集団としてまとまったわけです。ではご本人にとっては何か良いことがあったのか? ということについての話になります。「老年的超越」という言葉がございます。これは学術用語でありまして、85歳以上の人が持つ心理特性のことであり、1989年にスウェーデンの社会学者ラルス・トルンスタムが提唱した概念です。彼は85歳以上の超高齢者の心理特性をアンケート調査しました。死が近い人というのはあまり元気がないのではないか、という彼の予想に反して、皆さんすごく自己肯定的でポジティブだったのです。「宇宙的、超越的、非合理的な世界観への意識の変化」が見られました。アンケートに回答した人は全員健常者で、認知症の人はいらっしゃいません。ちなみに、超越する前は「物質主義的(合理的)、自己中心的、競争的、現実的」でございます。これは我々も含めて、若い人はみんなそうです。これと180度逆のことが年を取っている人に起こっているのだそうです。85歳以上の人が持つ心理的特性は3つありまして、1つ目が「感謝の認識」です。他人に支えられている認識と他者への感謝の念が強い。2番目が「利他性」です。これは先ほどちょっと話しましたけども、自分中心から他人を大切にする姿勢です。3番目が「肯定感」です。肯定的な自己評価やポジティブな感情を持つのです。具体的な例で言いますと、「ドラえもん」ののび太のおばあちゃんのような心境です。いつも縁側にニコニコしながら猫を撫でながら座っていて、庭の盆栽とか見ているわけです。そして宅配便の配送の方が来ても、まあ上がっていきなさい、と言ってお茶やお菓子を出して話を聞いてあげる、そんな優しいお年寄りというのが老年的超越の心理特性です。ですのでオレオレ詐欺にはひっかりやすいです。これは認知能力の問題ではなく、超高齢者の心理特性のためです。周りの人が注意していないといけませんね。何でこんなことが起こるのかというと、十分に生きたという満足感と幸福感、いつ死んでも悔いはない、というふうになると、いろんなことに対して寛大になる、利他的になるわけです。何よりも素晴らしいのは、死に対する恐怖も消失するのです。いつ死んでも構わないというメンタリティになるというところは素晴らしいです。利己から利他へ、さらに公共へ、どんどん意識が変化して、最後は自然との一体感を感じながら生きる。そして朗らかな気持ちで亡くなる、というところが、ある意味、1つの人生のゴールであると思っております。2番目の「ヒトの老いの意味とは何か」ということに関しては、老いても何も良いこともないと思っている方も多いと思いますけども、実はそうではなくて、社会にとっては老いた人は非常に重要で、利他的な人が必要なのです。3番目の「老年的超越を目指して」ということに関しては、最後は幸福感に満ちた心境まで頑張るということです。寿命を全うするまで生きられたらいいかなというところでございます。ご清聴ありがとうございました。最後に本日の話をまとめてみます。1番目の「ヒトはなぜ死ぬのか」については、これはDNAが壊れるからです。これはメカニズムとしてははっきりしております。ただその意味は、進化のためであり、死ぬものだけが進化できて今存在しているわけです。ですから、死というのは究極の利他的な行為なのです。
元のページ ../index.html#87