ファイナンス 2024年11月号 No.708
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6.長寿化のおばあちゃん仮説7.年配者(シニア)がいる集団が栄えた8.寿命延長の正のスパイラル 82 ファイナンス 2024 Nov.ヒトの700万年の歴史の中で、実は699万年は移動生活であったことです。狩猟と採集の生活です。農耕牧畜を始めたのは最近1万年です私たちとすごくゲノムが似ているチンパンジーに老後はありませんでした。ヒトとチンパンジーが別れてから老後ができたのだろうということになります。では、ヒトとチンパンジーの違いというのは一体何でしょうか。これを小学生に尋ねると、「違いは体毛です。猿は毛むくじゃらですが、ヒトには毛が生えていません」と答えます。確かに猿人から原人になったあたりで毛がパーっと抜けました。だいたい200万年前です。ちょうどこの頃、毛が抜けて寒くなったのかもしれませんが、火の使用を開始しております。野生の生き物は基本的に毛が生えているのですけれど、火をすごく怖がります。それは毛に火がつくからです。そこで、毛が抜けてから火を使うようなり、服も作るようになりました。普通、進化というのは有利な形質が残るんですけれども、毛に関してはあまりよく分かっていないですね。毛が抜けてそんなにいいことはなかったんじゃないかなと思います。例えば寒い、怪我をする、虫に刺される、こんなのは序の口で、1番困ったことは、実は子育てなんですよ。チンパンジーもゴリラも、子供が生まれると、数日後には子供は自分でお母さんの体毛にしがみつきます。ですので、お母さんは両手が使えます。木にも上るし、ご飯も食べられる。これがヒトの赤ちゃんだと、3歳ぐらいまでは転がっているだけです。何もしません。自分で母親にしがみつくこともできません。非常に手がかかる。手がかかるということは子育てができないということで、そこで終わっちゃった人類も多分いるんだと思います。毛が抜けて滅びた人類も。でも今、我々は現に生き残っているわけで、ここの難局を乗り越えたのです。どうやって乗り越えたかというと、1番強い説は「おばあちゃん仮説」というものです。シニアが助けたのです。おばあちゃんが元気な家庭は、子供の育児を手伝って、それで子供を育てることができたのです。これが有名な「長寿化のおばあちゃん仮説」というものです。多分おじいちゃんも手伝ったと思いますけど、主におばあちゃんが子育てを手伝って、元気なおばあちゃんがいる家庭は栄えた、それで長生きになったという説がございます。これは割と信じられています。では、おじいちゃんは何もしなかったのかというと、恐らくそうではないでしょう。ここからは私の説になるのですが、裸の猿であるヒトの祖先は集団で暮らしていました。集団で暮らすということは、結束力が強い集団が生き残るわけです。集団の中で結束力を発揮するには恐らく年長者が非常に重要だったのです。経験・知識が豊富ですから、シニアには集団をまとめる力があります。この時にはまだ文字も書物もありません。しかも狩猟採集の生活です。この山ではいつ何が取れるのか、釣りはどうやるのか、マンモスはどうやって倒すのか、というノウハウはすべて年長者の頭の中に入っています。ですから、世話好きでリーダーシップがあって、良いシニアがいる集団ほど栄えたわけです。なおかつ、集団で暮らしている人類にとって1番危機的な状況は、仲間割れです。必ず喧嘩が起きます。そういったことに対しては、誰かが仲裁しないといけないわけで、それができるのも恐らくシニアでしょう。シニアにはなぜそういうことができるかというと、例外はありますが、私欲が少ないからです。老い先短いので、「俺が俺が」とあまり言わないのです。私欲が少ないから信頼され、仲裁ができて、それで揉め事も丸く収めただろうと。ですので、良いシニア、徳のあるシニアがいる集団が団結力が強くなって栄えて、そのような集団が今まで生き残ってきたのだろうと考えられるのです。文明が高度になると、ますます知識の継承や教育に年配者が活躍します。年配者が活躍して集団が栄えると、ますますそのキャパシティが増えて、その集団がより多くのシニアを抱えこむことができるようになります。これが寿命延長の正のスパイラルとして機能したのだと考えております。

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