ファイナンス 2024年11月号 No.708
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令和6年度職員トップセミナー ファイナンス 2024 Nov. 81ヒトの老いの意味とはなにか?1.平均寿命の推移3.老いはヒト特有の生理現象4.野生の哺乳動物にはほぼ老化はない5.なぜヒトだけ長い老後があるのだろう?進化のためには「変化」と「選択」が必要です。選択がないとダメなのです。だから、生物は死ぬのです。ですから、「生物がなぜ死ぬのか」という問いそのものが間違っていて、生物が死ぬのではなくて、死ぬ生き物だけが進化できて、今こんなに存在しているのです。死なざるを得ないのです。死は進化のために必要な究極な利他的な行為なのです。以上が1つ目のテーマについてのお話です。日本は世界一の長寿国です。現在、ご存命のトップ10名中3名は日本人です。日本だけでも100歳以上が約9万人いらっしゃいます。9割は女性です。OECD38か国の平均寿命の変遷を見ると、1番上の右肩上がりが日本です。日本は最長国を20年以上続けております。シニア人材は世界一豊富です。日本人の生存曲線の年次推移を横軸が年齢、縦軸が生存数とします。男性と女性で比較しますと、基本的に形は一緒です。ただ、女性は5年ほど長生きなので、グラフが右に5年ずれています。もう1つ、こちらが重要なのですけども、どんどん平均寿命は伸びていますが、最大寿命は変わらないのです。男性の場合だと、85歳から95歳で大体40%が亡くなっています。ここは生物学でいう生理的な死です。何をやっても死ぬのです。女性の場合はそれが5年ずれていて、90歳から100歳の間に60%の人が亡くなっています。こうしたホットスポットがあって、その後の10年後ぐらいにほぼすべて亡くなるのです。それが寿命の限界です。人には限界寿命があるという研究がありまして、死の壁、そこは超えることができないのです。人の限界寿命年齢は115歳から125歳だろうとい2.平均寿命は延びても最大寿命は変わらないここから2つ興味深いことが分かります。1つは、今に至るまでの70年間でだんだんと平均寿命が延びてきたということです。要するに、あるところまでは全然亡くならなくて、突然急激に亡くなるというのが1つ目です。われております。この時にはゲノムがすごく壊れやすくなっているということなのです。ですから、もし先ほど私が申しあげたような研究でゲノムが壊れにくくなったら、この壁が突破できるのかもしれません。実は老いというのはヒト特有の生理現象だというのをご存知でしょうか。普通、野生の生き物で老いたものはいません。51種類だったと思いますが、野生の哺乳動物を調べた生物学者がいました。2017年の論文です。哺乳動物なので、メスの生理があるかどうかで老いているか、老いていないかを判定しました。ヒトの場合には女性の閉経は大体50歳前後です。ですから、そこから先が老後ということになります。老後があるのは陸上の哺乳動物ではヒトだけです。ヒトと遺伝子がすごく似ているチンパンジー(ゲノムは99%同じ)でも、老いたメスチンパンジーはおりません。死ぬまで子供が産めます。寿命はだいたい40歳から50歳くらいです。閉経までの年齢はヒトもチンパンジーもほぼ同じです。老後の長さでチンパンジーとヒトの寿命の長さに差が生じます。海の生き物では老後があるのが2種類あって、シャチとゴンドウクジラです。というわけで、可能な限り調べた哺乳動物の中で老後があるのは3種類だけです。陸上ではヒトだけでした。野生の哺乳動物は一般的に生涯子供が産めます。つまり老後はありません。では、なぜヒトだけが長い老後があるのでしょうか。先ほどお話したように、生物学者は何かわからないことがあると、その進化を考えます。進化の結果、そういった性質が選択されたのだから、その理由が分かれば、今の現在の性質が説明できるだろう、と考えるのです。そこでヒトの進化から考えてみましょう。ヒトというのは700万年前にチンパンジーと共通のご先祖様から別れました。それから猿人、原人、旧人、新人と進化していきます。ここで注目していただきたいのは、

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