ファイナンス 2024年11月号 No.708
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(1)ゲノムが壊れやすい病気4.DNAも壊れる5.ゲノムが壊れると死ぬ(2)DNAが壊れやすい生き物は寿命が短い2つ目です。これは生物学的なエビデンスです。生き物の寿命とゲノムの壊れやすさを調べると、きれいに反比例、逆相関するのです。ヒトが哺乳動物では1番寿命が長くて80歳ちょっと。一方、ゲノムの壊れやすさは哺乳動物の中でヒトが1番低い。1年間に細胞あたりで60カ所ぐらいしか壊れません。これに対して寿命が1番短い哺乳動物はハツカネズミです。寿命は2年です。壊れやすさは細胞当たり1年間に800カ所で、人に比べると20倍ぐらいゲノムが壊れやすいのです。他の動物も横軸を寿命、縦軸をゲノムの壊れやすさにプロットすると、寿命が長い生き物ほどDNAは壊れにくいことがきれいに示されます。ここで、「生物はなぜ死ぬのか?」についてまとめてみます。そのメカニズムははっきりしておりまして、ゲノムが壊れることが原因です。これを壊れないようにしてやると、多分長生きになります。マウスは寿命が2年でDNAは壊れやすい。ヒトは80年生きてDNAは壊れにくい。ではヒトのDNAを修復する遺伝子をマウスに入れてやって、マウスのゲノムを壊れにくくしたら、寿命は延びるのか、という実験をしています。どういう遺伝子がマウスの寿命を延ばすことができるかということが分かれば、その遺伝子を人で増強していればいいわけですから、かなり有効です。もう1ついいことは、ゲノムが壊れないようにして寿命を延ばすので、がんとか認知症にもならないんですよ。私は定年まであと5年あるのですけれども、5年で間に合うかどうかわかりませんが、1個でもそういった遺伝子を決めたいと思っております。でも、子供が「父さん、何でカブトムシは死ぬの?」と聞いたとき、子供が求めていたのは「ゲノムが壊れるからだよ」という答えではないのです。なぜ死ぬということがこの世に存在するのか、ということなのです。それに対する答えは「進化の結果できた生物はRNAの時代から最初から死ぬようにできている、なぜかというと、壊れないと進化できなかったから」というものです。死があるものだけが進化できて存在する。6.まとめ〜生物はなぜ死ぬのか?〜 80 ファイナンス 2024 Nov.DNAもRNAと同じく壊れます。壊れにくいのですけども、切れたり間違えたり、Gに対してはCがくっつかないといけないのですが、Aが間違ってくっついたりします。こんなことはすごくよく起こります。幸いにしてそれを直す酵素というのを私たちはたくさん持っていて、ほとんど直されています。でも100%ではないので、細胞分裂が重なるに従って、要するに年を取るに従って、ちょっとずつ「直し損ない」が溜まってくるのです。そして癌になったり、細胞の機能が低下したりする。それを老化と言います。癌は老化現象の1つです。先ほどの仮説ではRNAが壊れて、それで死が始まったのではないかと考えました。DNAとなった今でもその関係はずっと続いていて、やっぱり壊れる、そしてDNAが壊れるとやはり死にますよ、というお話を、エビデンスを2つ交えてお話しさせていただきます。1つ目です。DNAが壊れやすい病気があります。ヒト早期老化症という病気です。ヒト早期老化症は思春期を過ぎてから急速に老化症状が現れる遺伝病で、平均死亡年齢が50歳くらいです。この原因遺伝子はゲノムの修復に関わる遺伝子で、ゲノムの修復機能が普通の人よりもちょっと弱い。それでこの病気の患者さんのゲノムは壊れやすく、そのために寿命が短いのです。この早期老化症というのは、7種類知られておりまして、この7種類のうち、ウェルナー、コケイン、ブルーム、色素性乾皮症、ロスモンド・トムソンの5種類は、DNAの修復機能が普通の人よりちょっとだけ低いのが原因なんです。そうすると、寿命が縮んじゃうんですね。つまり、ゲノムが壊れやすくなると、寿命が縮む。遺伝情報が壊れると死んでしまいますよ、今でもRNAの時代と何ら変わっていませんよ、ということです。

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