ファイナンス 2024年11月号 No.708
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ファイナンス 2024 Nov. 77令和6年8月30日(金)開催講師演題米国の製薬会社の研究所で働いたことがありましたが、当時クリントン大統領が掲げた「ヒトゲノム計画」の影響で、直接ゲノム解読に関係のない研究者は全て解雇されるという経験をしました。生物学の分野では珍しく一大イベントとなったゲノム解析に人材や資金が一気に集中し、世界の潮流というのはそういう風に動くんだなと体感できました。その後日本に帰ってきてから、国立基礎生物学研究所、国立遺伝学研究所に勤め、現在は東京大学の定量生命科学研究所におります。その他にも、生物科学学会連合の代表や、日本遺伝学会の会長を経て、今現在は日本学術会議の会員として社会活動をいろいろさせていただいております。学術会議で今一生懸命やっているのが「我が国の学術の発展・研究力強化」です。ご存知のことと思いますけれども、日本の科学ランキングがどんどん下がってきております。政府から学術会議に対して審議要請があり、こうした問題にも取り組んでおります。また、大学院の博士課程に進む人材が日本ではすごく少なくなっていて、これは将来厳しくなるぞというようなことに警鐘をならしつつ、活動をさせていただいております。自己紹介本日はよろしくお願いいたします。私は九州大学大学院を卒業してから9回引っ越ししております。学者の世界では転勤しないと役職があがらないという風習があって、私もいろいろなところを転々としております。私は老化の研究をしておりますが、この遺伝子がない方が長生きになる、そういう面白い遺伝子があるんです。要するに、その遺伝子の機能は早く死なさせることなのです。死ぬことにも意味があるのだ、ということを色々考えているうちにこんな本を書いたということでございます。今日お話しするのは3つのテーマで、1つ目は「生物はなぜ死ぬのか?」という内容です。先ほどの本のお話でございます。2つ目は「ヒトの老いの意味とはなにか?」という内容です。3つ目は「老年的超越を目指して」という内容です。「老年的超越」とは何のことかよくご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、割とためになる話です。では1つ目の「生物はなぜ死ぬのか」という内容に入ってまいります。はじめに私は「生物はなぜ死ぬのか」という本を3年前に書きました。こんな暗い題名の本は普通売れません。文系では哲学とか宗教という分野がありますが、理系では死ぬことなんか研究している研究者はいませんから。死ぬことは結果であって、生物学では生理現象の解明、医学ではなるべく死なないようにすることが仕事の本質であって、死ぬことの意味なんかどうでもいいわけです。令和6年度職員 トップセミナー小林 武彦小林 武彦 氏 氏(東京大学 定量生命科学研究所 教授)(東京大学 定量生命科学研究所 教授)なぜヒトは老い、 なぜヒトは老い、 そして死ぬのか?そして死ぬのか?

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