米10102991078.5(出典) 「総合」から「健康アウトカム」までは、Schneider et al., 2021.に基づき、筆者作成。平均寿命はWHOによる2022年の計数。英328158886104264107-6蘭213637独939829仏567465加774574豪195211表1.5:保健医療制度のパフォーマンスのランキング、平均寿命(10か国)*8) 共和党は、罰金の廃止をもって、ACAは廃止になると喧伝した。二つ目の研究は、ACAによって病院利用が着実に増加したことを明らかにしている。ジャコモ・ミーレ(Giacomo Meille、Agency for Healthcare Research and Quality)らは、病院利用、特に救急医療(ED, emergency department)と入院(inpatient)の利用状況(回数)に焦点をあてて分析している(Antwi et al. 2024)。2014年にメディケイドを拡充した際、拡充州(主に民主党)と不拡充の州(主に共和党)があった。彼らは、この違いを利用して、回帰不連続デザイン法による分析を実施した。65歳以上の者はユニバーサルケアに近いメディケアに加入するが、64歳の者は加入できない。64歳のACA実施後の(64*POST-ACA)病院利用状況を取り出してACAの影響と考えた。あわせて、拡充州と不拡充州の比較から、メディケイド拡充の影響(Medicaid* 64*Post-ACA)を取り出した。その結果、ACAにより、全体の救急医療の利用は有意に増加していた(率換算で1.4%)。自己負担やメディケアによる支払いから、民間保険(マーケットプレイス)による支払いへのシフトが発生していた。メディケイド拡充州では、メディケイドの増が顕著であった。入院の利用も有意に増加し(率換算で4.2%増)、おおむね影響の出方は救急医療におけるものと同様であった。図1.14は無保険者が8.3%も残っていることを示す。手厚い補助だけで、このギャップを埋めるのはますます困難になっている。図1.15の示す通り、アメリカ救済計画は補助を一層深掘りしている(補助はインフレ抑制法でさらに延長)が、図1.14の示唆する通り、無保険者を大きく減らしたとは言い難い。ACAは保険加入を義務付けているが、未加入の場合の罰金は(トランプ減税、TCJAにより)2019年以降廃止されている*8。民間保険の活用というACAの基本哲学からして、若者など無保険者となることを選び取る者や、一部の健康への意識付けの弱い者の未加入を減らすことには、原理的な困難がある。最終目標である健康アウトカムへと至る道については、医療経済学者たちの間でも模索が続いている。ドナ・ギレスキー(Donna Gilleskie、ノールカロライナ大学チャペルヒル校)らは、健康保険への加入が必ずしも健康状態の改善につながるわけではないことを指摘する(Fout and Gilleskie, 2015)。ギレスキーらは、保険加入が、糖尿病患者の治療・管理に関する意思決定とその後の健康アウトカムにどのように影響したかを分析した。糖尿病患者は、定期的なモニタリングや処方薬なしでは、深刻な合併症を引き起こすリスクがある。保険はこれらのモニタリング等の経済的負担を軽減する。他方、保険は運動や食事など他の重要なインプットの選択に影響を与える可能性がある。検証の結果、保険は実際にモニタリングの改善につながっていたことが分かった。他方、〓*8総合アクセスケアのプロセス管理の効率性平等健康アウトカム平均寿命83.082.282.5NZスウェーデンスイス45138381.882.081.782.483.481.4 28 ファイナンス 2024 Nov.コラム1.9:医療制度改革の残した課題コラム1.8ではACAが手厚い補助により、保険のカバレッジを拡大し、実際の病院利用も増加したことを確認した。しかしながら、ACAにはやり残した課題もある。第一の課題は、医療アクセスの一層の改善、さらには最終的な社会目標である健康アウトカムの改善である。ACAにも関わらず、依然としてアメリカの医療制度が他の先進国に劣後しているとの指摘がある。レジー・ウイリアムズ(Reginald Williams、コモンウエルスファンド)らは、アメリカを含む医療制度の国際比較を実施した(Schneider et al., 2021)。彼らは、「ケアへのアクセス」「ケアのプロセス」「管理の効率性」「公平性」「健康アウトカム」について医療制度のパフォーマンスを評価した。表1.5は、ウィリアムズらによるランキングに各国の平均寿命を追記したものである。アメリカは、術後のケアなど「ケアのプロセス」を除いた、健康アウトカムを含む全ての項目で欧州諸国等より劣り、平均寿命でも最下位である。
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