50 図1.15:保険料・自己負担が世帯所得に占める割合(%)(貧困線比の所得階層別)(2020年)30図1.14:無保険者の人数と割合の推移アメリカにみる社会科学の実践(第二回)400-600%600%+マーケットプレイス(ARP以降)ACAの意義を理解するため、ふたつの研究を参照したい。第一の研究は、無保険者の減少をもたらした、ACAの持つ分配上の革新性を明らかにしている。ポール・ジェイコブズ(Paul D. Jacobs、Agency for Healthcare Research and Quality)らは、マーケットプレイスと従前の雇用主提供保険(ESI:Employer-sponsored health insurance)を比較し、マーケットプレイスが、ESIよりも非常に手厚い補助を受けていることを示している(Jacobs and Hill, 2024)。保険購入の際の補助には、1)保険料や自己負担(OOP, out-of-pocket)の課税所得からの控除、2)直接の補助・税額控除という二つの方法が存在する。従前のESIでは前者、マーケットプレイスでは後者を通じて補助をおこなっており、両者の比較は容易ではなかった。ジェイコブズらは、ESIの保有者があたかもマーケットプレイス保険の保有者であるかのように見なして換算することで、比較を可能とした。図1.15は、所得階層別に、補助後の保険料と自己負担の家計所得に対する比率を、ESIとマーケットプレイスで比べたものである(ARP以降とは、アメリカ救済計画による追加の補助を勘案した場合の計数)。例えば、連邦貧困線100‐150%の階層では、ESIでは所得の26.0%もの負担が生じていたところ、マーケットプレイスでは実に4.2%にまで抑制されている。マーケットプレイスが断然垂直的公平に優れていることが読み取れる。この分配上の革新性は、最終的に本会議で民主党のみの賛成でのACAの成立を図ることを余儀なくされた一因であり、成立後も政治的争点となりつづけている背景のひとつをなす。ファイナンス 2024 Nov. 2725201510100-150%150-200%ESIマーケットプレイス(ARP以前)200-300%300-400%図図11..1177:: 保保険険料料・・自自己己負負担担がが世世帯帯所所得得にに占占めめるる割割合合((%%))((貧貧困困線線比比のの所所得得階階層層別別))((22002200 (出典)Jacobs and Hill, 2024に基づき、筆者作成。(出典)Jacobs and Hill, 2024に基づき、筆者作成。 年年)) コラム1.8:医療制度改革の現在地医療経済学者たちは、オバマ政権による医療制度改革(ACA)のレビューを盛んにおこなっている。ACAは、三つの方法により、医療保険のカバレッジの拡充を図るものであった。具体的には、1)民間保険を購入するための医療保険取引所(マーケットプレイス)を創設し、手ごろな価格で保険を購入できるようにする。2)メディケイドを拡張し、連邦貧困レベル138%以下のすべての人に受給資格を付与する。3)26歳までの子女への保険カバレッジを民間保険に義務付ける。図1.14の示す通り、無保険者を減らすという目標に関しては明らかな前進がみられる。
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