ファイナンス 2024年11月号 No.708
28/106

*7) すなわち、もし上下院とも一党優位の状況にあれば、CBOの超党派性が損なわれる可能性があることは否定できない。 24 ファイナンス 2024 Nov.内容を詳述した予算教書が議会に提出される(例年2月)(OMBの業務については、コラム1.7を参照)。しかしながら、予算教書はあくまでも行政府からの要求であり、議会は別途自分ら予算を策定する。大統領と議会でねじれのある場合、予算教書はほとんど顧みられない。現在の議会の予算編成を律する大枠を確立したのが、「1974年議会予算・執行留保規制法」(以下、「74年法」という。)である。74年法の一つの柱は、予算委員会を設置し、予算決議を軸にした予算過程を定めることにより、予算の総額やプライオリティの決定を議会のもとにおくことであった。予算編成の基本的流れは、まず、予算決議で支出・歳入の合計や各分野における支出上限などを定める。続いて授権法案(Authorization Bill)で支出のおおよその枠組みを定め、歳出法案(Appropriation Bill)で個別の支出項目を定めるというものである。ただし、予算決議と授権法案は成立しないこともある。また、年金などの義務的経費については、授権法のみにより歳出権限が付与され、毎年の歳出法は不要である。財政規律は、予算編成権を持つ議会が自らに課すものである。代表的な財政運営のルールに、ペイアズユーゴー原則と債務上限がある。現行のペイアズユーゴー原則は、2010年ペイアズユーゴー法によるものである。新規施策の制定に際しては、他の分野での歳出減又は歳入増を伴わなければならないというもので、義務的経費を対象とする。債務上限は合衆国法典第3101条によるもので、連邦政府の負うことのできる債務の上限を法定している。74年法の第二の柱は、議会の予算編成権を支える実体的能力を議会に備えることである。具体的には、OMBに対抗し、議会独自の経済・財政分析の手段を確保するため、議会予算局(CBO:Congressional Budget Office)を設置することである。会計検査院(GAO:Government Accounting Office、1921年予算・会計法に基づき設置)、合同租税委員会(JCT:Joint Committee on Taxation、1926年歳入法)、議会調査局(CRS:Congressional Research Service、1970年立法府再編法)に続く、CBOの設置により、予算編成を支える議会の調査機構が一通りそろった。GAOは予算の下流(執行)からのフィードバックに関わり、CRSは予算に限らず、幅広く立法活動に資する調査をおこなう。それぞれ重要な機関であるが、予算編成過程(上流)を並走する、CBOはとりわけ重要な役割を担っている。JCTも同じく予算の上流部分で、税制に関し重要な機能を担っている。CBOでは、次の10年の「財政・経済見通し」(Outlook for the Budget and the Economy)を公表するほか、大統領予算教書の分析、新規立法のスコアリング(コスト見積もり)などに取り組んでいる。日本ではCBOを指して「独立財政機関」と呼ぶことがある。アメリカでは議会に予算編成権があり、その議会をサポートする機関が大統領府から「独立」しているのは自然なことである。むしろ、重要なことは二大政党の角逐の場である議会において、CBOが超党派の立ち位置を貫いていることである。この立ち位置を担保する最たるものがCBO局長人事である。局長は、74年法の定めに従い、下院予算委員長と上院予算委員長の共同推薦を受け、下院議長と上院議長が共同で任命する*7。党派に偏しない見通しを提供することで、CBOは両党の間に議論のための共通の土俵を設定する。財政・経済見通しは、一定の経済前提(予測)のもとで機械的に試算されるものである。CBOは、その経済前提を学界や民間の経済学者からなる委員会のチャレンジを受けながら作成する。経済前提の事後的検証も行われている。表1.2は、CBOの予測の実績との乖離を、政権、民間(Blue Chip Consensus)の予測と比較したものである(CBO, 2023)。平均誤差の示す通り、政権の予測が成長率で上方バイアス、失業率で下方バイアスを持つのに対し、CBOではそのようなバイアスは抑えられている。予測の精度(二乗平均平方根誤差)でも、CBOは少なくとも政権よりは良好である。このような経済前提のもとで、財政見通しは政策判断を加味せず、現行法に基づいて機械的に行われている。新規立法のスコアリングにおいても、CBOは施策への納税者の反応を捉える動態的なスコアリングを排し、静態的スコアリングに徹する。動態的スコアリングは仮定に依存し、その採用はCBOを政治的論争に巻き込むリスクを高めるのである。

元のページ  ../index.html#28

このブックを見る