図1.12:労働生産性の伸び率(第二次大戦後〜現在)図1.13:アメリカのTFPの伸び率(左軸)と実効研究者数(右軸)の推移アメリカにみる社会科学の実践(第二回) (出典)Bloom et al., 2020に基づき、筆者作成ファイナンス 2024 Nov. 21(2)技術は制御の対象とすべきかAIは生産性にとどまらず、分配への影響、労働のない「至福(bliss)」と経済学者が呼んできた問題まで、経済学者の興味を掻き立てている。分配については、ふたつの力が不平等化する方向に働く。ひとつは独占・市場支配力、もうひとつが教育・スキルである。独占は労働分配率を押し下げ、プラットフォームの市場支配力は消費者を自社関連製品へと誘導(self-preferencing)する力を与える。教育・スキルは、図1.4でみた格差拡大の背後に、技術進歩に対する教育・スキルの立ち遅れをみる、オーターの議論の延長上にある。ダロン・アセモグル(Daron Acemoglu、MIT)は、市場に任せても、社会経済的に最適な技術進歩が実現するわけではないと指摘する(Acemoglu, 2023)。マークアップの格差や外部性が存在する場合、高マークアップ、高外部性を伴う技術への過剰投資が起こる。歪みのある技術分野として、医療、エネルギーと並んで、(AIもその延長上にある)オートメーションを挙げている。予防と治療の間にはマークアップの格差があり、予防には十分な研究開発が行われていない。負の外部性のある化石燃料に過剰投資が行われている。そして、オートメーションにも、社会経済的に負の影響を持つにも関わらず、誰かの仕事を代替することで企業の生産性を高めるが故に、過剰投資が行われる。AIは人を代替するだけではなく、人の仕事を助ける面(補完)もある。どちらが働くかは実証的な問題であるが、マッキンゼー社は、低スキルの職種に減少圧力がかかると予測する(McKinsey, 2023)。同社は、仕事全体としては純増を見込むが、顧客サービスやオフィス補助では大幅な減(主要なシナリオで2030年までに各々18%、13%減)を予想する。製造業で問題化してい
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