ファイナンス 2024年11月号 No.708
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黒田東彦前日銀総裁、東京大学講演「財政金融政策に関する私の経験」(後編) 16 ファイナンス 2024 Nov.植田健一教授:最後に一言、もし東大の学生に是非今後の人生の指針や、日本をどうすべきかなどについて、もし何かありましたら宜しくお願いします。黒田前総裁:これは大変難しい質問です。今年の1月から5月まで、コロンビア大学の客員教授をして、大学の学生や教授、また、ニューヨークのウォールストリートのヘッジファンドなど、いろんな人と会って話をしたのですが、ある意味で言うとアメリカ社会の方がよっぽど大変なことになっていると思います。非常に分断化が進み、単に金持ちと貧乏人や、白人と有色人種などという話ではなくて、もっと複雑に分断化が進んで、非常に社会としての統一とかが難しいことになっています。こういう中で誰が大統領になるか分かりませんが、誰がなっても大変ですし、また、そのもとでの官庁のスタッフも本当にどこを見て仕事をすれば良いか分からないので非常に大変だと思います。私が教えたコロンビア大学では、例のイスラエル対ハマス戦争で、イスラエル支持派とパレスチナ支持派でデモをやっており、大学当局が2回に渡って警察隊を動員するという騒ぎになりました。これもまた分断化の一つであり、非常に難しい問題であると思います。そういう意味では日本は非常に恵まれていますね。最近の霞が関は士気が低下しているという問題があるのですが、政府の役割が減少するわけではないし、そのもとにおいて、総理や大臣、国会などの役割が小さくなるわけではありません。政府の職員がやらなくてはならないこと、さっきから申し上げているようなことを含めて、自分の経験も踏まえて、最適な政策は何か、そしてそれを実行していくという意味で、その官庁の職員の役割は大きい訳です。そういうところで是非仕事をやってみようと思っていただくのはいいと思います。公務員をしていると私が申しあげたようないろんな事件もありますし、大変なこともあるのですけども、それだけ面白さや興味深さがあります。公務員になって官庁にいくうえで、公的なことに貢献しないといけないとか、そういうことをあまり考えるよりも、そういう社会、そういう世界で自分も面白い仕事、面白い経験ができるということを考えて、アプライしていただくといいんじゃないかなと思います。もちろん、面白い経験も辛い経験もあるけども、ある程度ダイナミックでチャレンジングな生涯を送れると思うので是非お勧めします。また、現在の職員の方々は、いろいろな苦労もあるかもしれませんが、将来、重要で効果的な政策を担当されるかもしれません。また、留学、他省庁への出向、地方や外国での仕事など、異なる環境の下で、ブラッシュアップする機会もあるでしょう。さらに、現在の職場を離れて、民間企業やコンサルタントとして働く人も出てくるかも知れません。これも一つの生き方であると思います。ただ、その場合も、元の職場の人たちとの連絡は維持し、再び元の職場に戻ることもあって良いと思います。要するに、現在の仕事が思うように進んでいなかったとしても、将来は明るいことを期待して、前向きに仕事に取組んでいただきたいのです。私自身の経験でも、困難なことは多々ありましたが、あきらめずに、その時々の仕事に取組んできました。職員の方々にも、そうした積極的な対応を期待します。以上

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