14 ファイナンス 2024 Nov.という状況でした。私はハロッドの言うことは正しいんじゃないかと思いまして、データを見たんですね。確かに、需要と価格が捻じれているんです。完全雇用の少し下の所ところではむしろ、財政金融を締めて需要が減ると物価が上がってしまう局面があるので、これは「ハロッドツイスト」、「ハロッドのねじれ」というものがあるんじゃないかということを、『ロンドン・エコノミスト』に2回に渡り投稿したのです。すると、ハロッド先生が私の大学院の寮に来てくれました。どうも彼は、私に手紙を書いていたらしいのです。カレッジの門のところにあるピジョンボックスに行って毎日見ていれば良かったんですけど、手紙なんてほとんど来ませんから私は全然見ていませんでした。大学院の寮にいたら、突然コンコンとノックされて、開けたら、痩せた背の高い帽子をかぶったハロッド先生がそこにいたんですね。そうしたら、私の『ロンドン・エコノミスト』への投稿の内容は正しいと、ただ、一部のところでタイポ、ミスプリがあって、それは直させた方がいいぞと彼は言うんですね。私はそんなことをわざわざ『ロンドン・エコノミスト』に言って修正させる必要はないんじゃないかと言ったんですが、彼は厳しくて、そういうミスプリントしている部分はちゃんと是正させなくちゃいけないとか言ってくれました。1時間くらい話しました。論文でしか見たことがない人だったんですけど、面白い人でした。ヒックス先生もハロッド先生もIMFの理事補をやっている時にまたお会いしました。二人ともその後すぐに亡くなってしまったため、基本的には大学でのやりとりでした。私は法学部卒なのに、オックスフォードの経済学の大学院に行きました。オックスフォードの受け入れのチェックを担当するオックスフォードの先生から、法学部を出ているのに経済学の大学院に行って大丈夫か、どういう英語の本を読んだかと聞かれたので、サミュエルソンのEconomicsを読んだと言ったら、あれは高校の参考書だよと言われました。その時、ドン・パティンキンの、一般均衡論とマネタリーセオリーの統合が図られるかということを論じた本がありまして、その本をたまたま読んでいたので、その本を読んでいますというと、そうか、と入学を許可してもらったのです。そういう意味で色々な経験もできて非常に面白かったです。学生:ご講演ありがとうございます。金融政策は経済に合わせて機動的に行うべきであるという観点から、例えば中央銀行の独立性等が謳われているということだと思います。一方で、アベノミクスであるように、安倍さんの経済政策となると選挙のスローガンにされたりして、なかなか政策変更を中央銀行からしにくくなってしまうのではないかと考えられます。もう一点は、日本経済の停滞の要因は物価の低迷であり、マネタリーベースを増やせば解決する、というリフレ派と呼ばれる人たちがいらっしゃったと思います。そういった人たちが日銀総裁人事に対して、サポートをするということについてはどう思われますか。黒田前総裁:いわゆるアベノミクスというのは、金融の大幅な緩和、機動的な財政政策、そして成長戦略ということだと思うんですけど、そういうことを安倍総理が思っておられたことは事実だと思います。一方、そのもとで2%の物価安定目標を出来るだけ早期に実現するために金融緩和を行うという決定は、2013年の1月に日本銀行が行ったわけですね。その時の日本銀行は既に1998年の新日銀法以来、政府から独立して政策委員会で決められるということで、2%の物価安定目標を出来るだけ早期に実現するために金融緩和を行うということは、実は私が総裁になる前に1月の段階で日本銀行の金融政策決定会合で決まっていたということです。そのもとで私が始めたのは、2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現するために必要な金融緩和がどのようなものかということをスタッフと色々話し、実際に金融緩和を打ち出し、それからマイナス金利を導入し、イールドカーブ・コントロールを決めました。そういうことで、2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現するという日本銀行の決定に沿って行ってきたという訳であります。総裁の時に、年に2回ほど官邸で安倍総理と会いましたけれど、大体金融状況とか経済状況とかをお話しして、議論しましたけれど、なにか金融政策について注文めいたこととか、批判的なことは、どちらにしても総理は何もおっしゃらなかったです。安倍総理とは
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