ファイナンス 2024年11月号 No.708
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東京大学 服部 孝洋 10 ファイナンス 2024 Nov.2024年7月10日に、東京大学公共政策大学院において黒田東彦前日銀総裁(第31代総裁)が「財政金融政策に関する私の経験」をテーマにご講演されました。当日は、400名を超える学生や教職員にご参加いただきました。公共政策を学ぶ学生にとって大変刺激となる貴重な機会となりました。ご多忙な中対応くださいました黒田前総裁とスタッフの方々に感謝申し上げます。本稿は当日の講義内容を活字化したものです。東京大学の学生向けに、黒田前総裁が大蔵省(現財務省)に入省されて以降のご経験をご講演いただいた貴重な内容です。また質疑応答では、海外での留学でのご経験や、現在公務員になることについてのメッセージなどもあり、学生だけでなく、多くの人に読んでもらいたいと思っています。なお、本稿は「黒田東彦前日銀総裁、東京大学講演『財政金融政策に関する私の経験』(前編)」(『ファイナンス』2024年10月号)の続編になるため、前編についてもご一読いただければ幸いです。アジア開発銀行総裁としてアジア経済の安定と成長を支援する一橋大学の教授を2年やった後に、アジア開発銀行の総裁になりまして、これは8年間務めましたが大変興味深かったです。アジアの経済が非常に発展していたというのもありますが、アジア開発銀行という国際機関のヘッドをしていると、相手国の首脳に会えるのですね。私は例えば、中国の温家宝総理には5回くらいお会いしましたし、胡錦濤主席にも1回お会いしました。インドネシアのユドヨノ大統領には7、8回お会いしました。インドのマンモハン・シン首相には多分10回くらい、毎年2回くらいインドに行って会っていました。そういう意味で単に開発金融機関としての各国に対しての支援をするだけではなくて、そういった国々の首脳と会って、いったいどのように経済を運営しているのか、あるいは運営しようとしているのか、あるいは政治的意味合い、そういう部分を話題にして話を聞くことができました。例えば、中国の温家宝総理と会った時に、人民元の切り上げ論の話が出ました。また、戸籍は都市戸籍と農村戸籍の2つがあるのですが、やめた方がいいのではないか、といった相当微妙な話もありました。マンモハン・シン首相には、インド経済は規制緩和とインフラ整備が進めば、毎年7%の成長が20~30年続くのではないか、規制緩和は十分ではないしインフラがまだ十分でない、ということを主張しました。ただ、特に21世紀になってからは、インフラ整備は大分進んだというのと、規制緩和も随分進んだので、インド経済は本当に7%成長を、あと20~30年は続けられるんじゃないかなというふうに思います。物価の安定に努める(2013〜2023年)私は、2005年2月に千野総裁が任期を2年残して退任した後を継いでアジア開発銀行総裁に就任したので、2年後の2007年2月に5年の任期で再選され、さらに5年後の2012年2月に5年の任期で3選されまし黒田東彦前日銀総裁、東京大学講演 「財政金融政策に関する私の経験」 (後編)

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