ファイナンス 2024年10月号 No.707
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PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 36ファイナンス 2024 Oct. 89 「財政政策と金融政策の一体運用によるマネー供給コントロールの可否」 森田長太郎 オールニッポン・アセットマネジメント株式会社執行役員・チーフストラテジスト2024年5月16日(木)1988年日興證券/日興リサーチセンター、2000年ドイツ証券、2007年バークレイズ・キャピタル証券、2013年SMBC日興証券等を経て、2023年より現職。財務省理財局「国の債務管理に関する研究会」メンバー。ルの前提がどこかおかしいのではないかと考えるのが普通だと私は思います。財政に関してもいろいろなモデルがいくらでも作れる。その中には、金利が低いときにはどんどん財政を出動したら良いというものもあると思うのですが、それをいちいち気にかける必要はないだろうと思っています。3.歳出の効率化が重要最後に歳出の効率化が重要だということを述べたいと思います。ワイズスペンディングという言葉が随所に見られるようになりましたが、ワイズスペンディングの成功例はインバウンド消費の拡大ではないでしょうか。もっとも、国は関連事業にそんなにお金を使っていないのです。お金を使うのではなく、然るべき規制緩和に努めた。現在、5兆円くらいのインバウンド消費支出があって、統計上は貿易収支に計上されます。昔からあるモノの輸出では自動車が一番多くて年間10兆円ぐらい、車の部品や鉄が5兆円くらいだと思いますが、インバウンドはほぼそれに匹敵するような付加価値を毎年生み出しているわけです。これに対してこの20年ほどで国が使った予算はピーナッツのように小さいと思います。わずかな投資で毎年5兆円がフローで入ってくるわけですから、投資効率で言えばものすごい高さになると思います。要はスペンディングの前にワイズアクションがなければいけない。そういう意味では国もまだまだやるべきことはあると思っています。1.コロナ・パンデミックが惹起したもの昨今ホットなテーマである財政政策と金融政策の関係性についてお話をしたいと思います。金融政策が動き始めていますが、もう少し長いスパンで見ると、コロナ・パンデミックによって未曾有の財政拡張が日本だけではなく各国で行われたことをきっかけに、財政政策と金融政策の境界線を巡る議論が非常に活発になってきていると思います。コロナ・パンデミックが惹起した議論にマネーの供給量とインフレの関係があります。この関係は久しく中心的な議論ではなかったのですが、再びクローズアップされています。米国のマネーサプライとインフレの関係を見ると、1970年代はどちらかと言うとインフレの変動がマネーサプライの増減を促したように観察されますが、今回は逆で、コロナ・パンデミック後にマネーサプライの急増が起きて、それを追いかけるようにインフレの高騰が起きています。ただ、日米欧を比較すると、マネーの伸びのタイミングはほぼ同時だったにもかかわらず、インフレの発生時期は米→欧→日の順となりズレが生じました。マネーとインフレの関係は必ずしも固定的なものではないと言えるでしょう。財政とマネーの関係について考えてみると、今回マネーが急拡大した背景として財政拡張、つまり金融政策の領域を大きく凌駕する形で財政がマネーの世界に影響を及ぼしているということがあります。改めて振り返ると、日本では1990年代後半から2000年代前半は政府部門の信用創造がマネーの増加に最も寄与していました。この間、不良債権問題による民間部門の信用収縮があったので、財政赤字の拡大はむしろ民間の信用収縮を相殺したような経済効果が認められる期間です。その後、民間の信用収縮はある程度止まって、2010年代半ば以降は民間の信用創造機能が少しずつ回復しました。インフレの問題は金融政策の領域という前提があるものの、インフレにはマネー供給が影響を及ぼす場合があり、マネー供給の要素として、家計や企業といった民間のほか、政府による信用創造プロセスも重要であるということが、ある種当たり前ではありますが、分かります。2.財政政策と金融政策の関係についての考察財政政策そのものがマネー供給量の増減に大きく関与している以上、金融政策と財政政策を完全に分離した形で考えるのは無理がある構造になっています。金融政策として中央銀行が国債を大量に保有するという形で、結果的に財政政策と金融政策の領域が非常に複

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