ファイナンス 2024年10月号 No.707
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同じ、(2)租税条約に固有の眼目は、各国が税収を一定量確保することを前提に税収を関係国間でどう配分するかにあり、この点しか通商協定から税をcarve outする論拠たり得ない、との整理が提唱されている。(俯瞰的にもほどがある?)「税とマネロン」について、「税と通商」について行われたような「俯瞰的な政策検討」は行われていないと見られる。著者が夢見る「法執行に際しての大きな共働関係を構築するような、大胆な発想の転換」の糸口はないかと、評者も駄目元で「俯瞰的な政策検討」を試みた。今更だが、FATFのFAつまりfinancial actionとは何か。FAの和訳は「金融活動」が定着し、またFATFでは金融機関関連の話題が多いので、financial action=「民の金融取引」が当然視されている節がある。しかし、FATFの行動主体は官だからfinancial actionの行動主体も官ではないかと考えてみると、financial action=「財務当局(financial ministry)の行動を中心とした官の財務分野の行動」が素直な解釈ではないか。この考え方に従えば、財務当局の構成員たる税関当局や税務当局はFATFの協力者ではなく当事者となるので、政策的な位置づけ、優先順位も変わって来よう。なおG7サミットの「制度的沿革」を見ても、サミット創設当初からその運営に外交当局と共に深く関与してきた財務当局が自分事としてfinancial actionをコミットするのは自然で責任ある態度ではなかろうか。頭まではサミットと言えば現在のG7サミットを指していた。Bene■cial OwnerBeneficial OwnerはFATFで「(名義上の)顧客を最終的に所有ないし支配する自然人、または(名義上の)顧客名で取引する自然人」と定義され、税の透明性の確保に取り組むOECD等もこの定義を採用している。日本では「実質(的)支配者」「実質(的)所有者」「真の受益者」「最終受益者」等々に和訳され、内容も文書、文脈で異なるので要注意。念のためFATFのもう一つの公用語のフランス語表記を確認すると、定義は英語表記の直訳だが、用語はBénéficiaire Effectifで英語表記の直訳ではない。誤解を避けるため拙稿ではBeneficial Ownerのまま使用した。ファイナンス 2024 Oct. 75 共働関係を構築するような、大胆な発想の転換が必要とされているのかも知れない。」本問題提起に続き、著者は最新の論文「マネー・ロンダリング対策と税務の交錯」で、税務当局が受け手・送り手となる情報提供の現状と法的論点を整理した。(1)税務当局が受け手となる情報提供として、警察当局から税務当局への「課税通報」が恒常的に行われ、犯罪捜査で発見した収益への課税を促している。(2)他方、税務当局の質問検査でつかんだ金融犯罪の端緒はマネロン捜査を担う警察にも極めて有益な情報となり得るものの、国税職員の重い守秘義務が公務員の犯罪告発義務に優先するので税務当局が送り手となる情報提供は困難というのが伝統的な通説・実務。(3)税務当局が送り手となる情報提供についての2004年の最高裁決定や最近の研究は、事案毎の守秘義務と告発義務との利益衡量の問題と考え、守秘義務が告発義務に一般的に優先するとは考えない。(税と通商)「税とマネロン」は、2000年代初に評者が従事した経済連携協定交渉でも論点となった「税と通商」を連想させる。伝統的な税の専門家は、税については租税条約があるとの理由で、通商協定から税をcarve out(彫り除く=適用除外する)することを主張してきた。経済連携協定交渉と並行して、最近の税の専門家による「俯瞰的な政策検討」が行われ、(1)租税条約の一つの眼目は貿易・投資の促進で、これは通商協定の眼目とアルシュ・サミットアルシュ・サミットは1989年7月14日(フランス革命200周年記念日)から3日間、パリに隣接するラ・デファンス地区に新築された新凱旋門(グラン・アルシュ)で開催された。地区名「ラ・デファンス」は、19世紀の普仏戦争時に付近でパリ防衛(ラ・デファンス・ド・パリ)の戦闘があり、同名の記念碑が設置されたことに由来する。G7サミットは東京サミットのように通常地名を冠するが、一説には「ラ・デファンスサミット」は戦闘を彷彿させるのでアルシュ・サミットと命名したらしい。なお、「G20サミット」から日本酒マニア垂涎の「雄町サミット」まで、現在ではサミットを冠するフォーラムは官民で数多く存在するが、1990年代初

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