FINANCE LIBRARY徳岡喜一国際局為替市場課長本書は、英語で仕事をしている/しようとしている若手への激励の書である。筆者の経歴からわかるとおり、筆者の英語は、国際舞台の最前線で通用する非常に高い水準なのだが、そんな筆者でもこんな失敗をしてきたのかというエピソードが本書には多く登場する。レストランで卵料理(egg)を注文したかったのに、メニューにあったeggという文字を探して注文したら、ナス(eggplant)が出てきたり。こうしたエピソードは、若手をはじめ英語で苦労が絶えない者(私も!)に希望を与える。本書には、英語で仕事をする上での、実践的なアドバイスやフレーズも満載である。英語での会議の記録作りのためのメモとりの際、出席者が何を言っているかわからなくなったら、英語を理解しようとするのは棚上げし「聞き取れた英単語をずらずらと並べて書き取っておく」というアドバイスはその一例である。私自身は、筆者のこのアドバイスを過去に聞いており、窮地に陥った際に、これを思い出して幾度となくその場を切り抜けてきた。今般、こうした実践的なアドバイスが盛り込まれた書籍が世に出たことで、より多くの人が救われることが何より嬉しい。実践的なアドバイスに加え、本書のコラムでは、筆者が国際会議などで実際に発動した使えるフレーズがふんだんに紹介されている(逆に使って失敗したフレーズも)。筆者が特に激励したかったのは若手だと推測されるが、本書を読み、私自身も英語学習のモチベーションを高めた。本書の中に、筆者が単語帳を作り繰り返し復習をしてきたというくだりがある。継続的な努力の重要性を改めて痛感し、私自身、も新しく単語帳を作った。本書のコラムに紹介されていた会議で使えるフレーズ(例えば、「Your proposal may end up with unintended consequences」)も早速単語帳に加えた。瀧村晴人アジア開発銀行総裁首席補佐官本書は、国際舞台で英語を駆使してきた官僚のリアルな苦悩と挑戦を、軽妙な語り口で描いた一冊だ。著者の大矢氏は、私が財務省でお仕えした上司でもあり、本書のエピソードとして紹介されたメキシコ・ロスカボスでの国際会議出張に同行したこともある。その出張では大型ハリケーンに襲われ、急遽「特別な」飛行機で脱出するという事態に直面した。このエピソードを読むたび、あの時の緊迫感と、海外でのトラブルに慣れた大矢氏が見せた冷静な対応を思い出す。予期せぬ事態にもかかわらず、ユーモアを忘れずに冷静に対処する大矢氏の姿勢には、国際舞台で活躍するための重要な教訓が詰まっている。本書は、国際交渉の現場でどのように英語を使えば効果的かについて、多くの経験談を通じて伝えている。特に国際会議で役立つ英語フレーズを紹介するコラムが随所にあり、教科書では学べない生の英語表現が実例とともに紹介されている。これらのフレーズは、国際交渉に携わる者がしばしば直面する場面を想定しており、非常に実践的だ。また、はじめて国際交渉に挑む若い官僚やビジネスパーソンにとっても、細かい点まで配慮されたアドバイスが満載である。例えば、国際交渉や会議でのメモ取りは若手の役割となることが多いが、英語の聞き取りに不安がある場合、日本語か英語のどちらでメモを取るべきか悩む人も多いだろう。本書では英語でメモを取るべきだと強く勧めており、その理由を具体的に解説することで、読者の迷いを取り除いてくれる。本書を通して、海外で活躍するためには、英語だけではなく、どんなに困難な状況でも笑顔を忘れない柔軟さと、前向きな思考がいかに大切かということを教えてくれる。本書は、英語に対する苦手意識があるけれども国際的な舞台で挑戦したいと考えている人に勇気を与え、そっと背中をおしてくれるだろう。東洋経済新報社 2024年7月 定価 本体1,600円+税評者国際局為替市場課長徳岡 喜一アジア開発銀行総裁首席補佐官瀧村 晴人JICA広報部長川淵 貴代国際協力銀行 執行役員 外国審査部長横堀 直子 72 ファイナンス 2024 Oct.大矢 俊雄 著霞が関官僚の英語格闘記「エイゴは、辛いよ。」
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