ファイナンス 2024年10月号 No.707
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米国1ドル銀貨(1924年銘:直径38.00mm、量目26.80g)裏面。下部に「PEACE」の文字が見える。イタリア 2リラ・ニッケル貨(1924年銘:直径29.00mm、量目10.00g)コインの世界につれてって!〜収蔵庫からこんにちは 奥深いコインの世界〜ファイナンス 2024 Oct. 65 (5)世界の国々で使われているコイン1935年にも発行された1ドル銀貨は、第一次世界大戦の終結とそれに続く平和と繁栄の時代を記念し、米国が平和になったことを象徴するように、裏面の白頭鷲が平和の象徴であるオリーブをしっかりとつかみ、その足元に“PEACE”の文字が刻印されていることから「ピースダラー」と呼ばれています。本展で紹介した1ドル銀貨は、摩耗が激しいですが、PEACEの文字がかろうじて確認できます。〈伊2リラ・ニッケル貨(1924年銘)〉イタリアでは、1861年に統一され王国となった後は、100センテーシモを1リラとする貨幣制度が用いられました。1924年銘の2リラ貨には、表面には、当時の国王であったヴィットリオ・エマヌエーレ3世(在位期間:1900-1946)の横顔が刻まれています。この2リラ貨の裏面に1923年から描かれるようになった「束桿」(そっかん/fasces、ファスケス)は、束ねた棒に斧を縛った一種の権威標章で、古代ローマ時代より政治的な団結を象徴するものとして用いられ、「ファシズム」の語源ともなったものです。1922年に独裁政権を樹立したベニート・ムッソリーニ率いる国家ファシスト党の党章に用いられていました。ちなみに、このファスケスは、元々団結の象徴として用いられていたことから、実は米国において、1916年から1945年に発行された、いわゆる「マーキュリー・ダイム」(表面に描かれた自由の女神が、ローマ神話における商業の神であるメルクリウスと誤解されてこのように呼ばれている10セント貨)の裏面にも描かれていました。米国内では、1930年代初めに、イタリアでのファシスト党の台頭を受けて、このコインへの批判が高まったと言われていますが、1945年のフランクリン・ローズヴェルト大統領の死去を受けて、翌年にローズヴェルトの肖像が刻まれたダイムが登場するまで発行されました。本展では、米国・イギリス・オーストラリア・カナダ・韓国・クロアチア・ケニア・スイス・ジョージアにおいて、現在流通しているコインも紹介しました。日本を含め各国の造幣局が参加する「造幣局長協会 (Mint Directors Association)」及び「国際造幣局長ネットワーク(International Mint Directors Network)」が運営するウェブサイト(mintindustry.com)によると、全世界で普段使われているコインは、現在、おおよそ800ほどの種類があると言われています。それらの材質も、日本の貨幣ではなじみの深い、アルミや白銅、青銅などのほかに、ステンレススチールや表面を銅などでめっきしたコインが発行されています。また、このmintindustry.comによると、世界には、日本の造幣局のように、政府が保有している造幣機関が約70機関あるほか、民間でも約40機関あると言われています。米国等、主要な国々には、それぞれ造幣局がありますが、中には造幣機関の無い国もあり、その場合は、政府や中央銀行が、他国の造幣機関や民間の造幣所に依頼して、自国貨幣を製造しています。例えば、ジョージアには造幣機関がないので、平成28(2016)年には、日本の造幣局が、同国の中央銀行から、一部のコイン(20テトリ貨)を受注・製造したこともありました。

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