図1.11:民間製造業建設支出(Private Construction Spending)の推移(百万ドル)アメリカにみる社会科学の実践*5) 同報道によると、アメリカの半導体産業の雇用は、2000年の28.7万人から2017年には18.1万人に減少している。 60 ファイナンス 2024 Oct.アウトプットであり、アウトカムではない。そして、現在は第二次大戦時とは異なる。戦時中に4割に近かった製造業での雇用割合は、現在では8%程度まで減っている。サマーズはここでもバイデン政権を批判する(PIIE, 2023c)。先進国で製造業は衰退する傾向があり、政権の製造業へのこだわりは現実的ではないと指摘する。製造業の立ち上げには、相応の人材も必要である。CHIPSおよび科学法の支援を受けて、韓国のSKハイニックス社がインディアナ州に半導体工場を作ることにしている。報道によると、アメリカには半導体工場を稼働させる人材が限られるため*5、同社は地元のパデュー大学と連携し、人材育成するところからはじめているという(The Wall Street Journal, 2024)。筆者のみるところ、「現代供給サイド経済学」は、あまりにも多くのものを求めすぎている。気候変動、安全保障、格差対策のすべてに最適な答えを出すプログラムがあると信じてよいものだろうか。そして、Swing Satesでの選挙の勝利という、隠れたもうひとつの目標がある。補助という政策手段は最適なものであるのか。特に気候変動のように最適な技術が定まっていない分野で、連邦政府が特定の技術を推すことは市場機能を歪めるのではないか。補助こそ最大の政治力をもたらす手段であり、このことが政策設計の際にどの程度影響したのか。「場所に基づく」政策として、以前から実施されていたものは、各州による企業誘致である。各州は補助や州税減免を駆使して競い合う。ナショナルなワシントンの目線からみれば、企業は全米のどこかには立地するのだから、州からの補助は企業の懐を肥やすだけの意味しかない。連邦レベルで州のやっていたことを拡大再生産することに何の意味があるのか。ただ、「現代供給サイド経済学」に意味が4再生産という点に隠れあるとすれば、まさにこの拡大4ている。補助によって、国外に立地したはずの生産活動がアメリカに立地するのであれば、アメリカにとってはネットでプラスとなる可能性がある。関税障壁とセットの補助金による産業振興、「現代供給サイド経済学」は存外古い重商主義的な近隣窮乏策の貌を持つ。「現代供給サイド経済学」の歴史的評価は定まっていない。その評価は、気候変動、安全保障、格差対策、選挙対策の視点から多面的に行われる必要がある。どこに価値を置くかにより評価は変わりうる。CHIPSおよび科学法と異なり、民主党単独で可決したインフレ抑制法は、2024年の大統領・連邦議会選挙の結果から影響を受ける可能性がある。ただ、製造業振興、中国との競争というモチーフは超党派であり、アメリカの政策から重商主義のにおいが払拭されるとは考えにくい。(次号につづく)
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