図1.7:欠員と失業者の比率(v/u)の推移図1.8:超過インフレとその要因(出典)Giovanni et al., 2023に基づき、筆者作成(2)金融政策金融政策をインフレの原因とみるかについては、財政に比べ、見解にばらつきがある。FRBが当初、インフレを一時的なものと見做し、その後、見解を撤回したことはすでにみた。診断を誤り、利上げが遅れ、インフレを余計に加速させ、その後のインフレ抑制に苦労することになったという批判は可能である。急ピッチな利上げは経済に余分な歪みを与え、実際、2023年3月には中堅のシリコンバレーバンクが破綻するなど金融システムにストレスをかけた。ジョン・テイラー(John Taylor、スタンフォード大学)は、2023年3月の議会証言で、利上げがテイラールールの勧告よりも遅れていると指摘の上、遅れの背景として、FRBがルールに基づく金融政策に一貫して取り組んでこなかったことを挙げている(Taylor, 2023)。インフレ前の政策枠組みにインフレバイアスがあったことを問題視するのが、ドナルド・コーン(Don Kohn、元FRB副議長)とガウティ・エガートソン(Gauti Eggertsson、ブラウン大学)であ 54 ファイナンス 2024 Oct.観察された政府歳出の増を控除してモデルを回し、財政刺激が総需要ショックの半分以上を説明すると結論づけている(インフレの少なくとも1/3が財政要因である)。図1.8は、借入制約のある消費者が3割いることを想定した試算で、トレンド超の超過インフレの8.21%(左図(1))が、財政刺激がなかった反実仮想の世界(右図(2))では3.95%に減っている(借入制約のある消費者が多いほど、財政刺激がインフレを惹起する)。また、フランソワ・デ・ソレス(Francois de Soyres、FRB)らは、アメリカを含む先進国、新興国のデータ(2022年第1四半期まで)に基づき、コロナ禍特有のショックと財政刺激との関係を解き明かしている(Soyres, 2023)。財政刺激は、行動規制を解除した際に財の需要を増幅する効果を持った。他方、工業生産は急激な需要の増加に対応するほど迅速には調整されず、インフレ圧力を生んだという。超過インフレを被説明変数とする回帰分析によると、財政刺激は、アメリカの場合で2.55%程度のインフレ要因になったという。
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