ファイナンス 2024年10月号 No.707
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図1.6:グリーンとブラウンの累積リターンの差(実際と反実仮想)その上で、2010年代にグリーン投資のリターンが高かったのは、気候変動への関心が予期に反して尻上がりに高まり、投資家がグリーン投資することを望み、消費者もグリーンな製品を欲しがるようになったからであるとする。パストールらは、アメリカの主要な新聞で気候変動が話題になる頻度を指標化したものを用い、この指標の動きがリターンの動きをよく説明することを示している。そして、図1.6の示す通り、この指標の上昇(気候変動への関心の高まり)がなかったとしたら(反実仮想)、どうであったかを逆算すると、グリーン投資の優位性が大幅に下がったことを示している。製品を買う顧客からのキャッシュやESGファンドへの資金の流入といった他の動き(上昇)もなかったとしたら、グリーン投資の優位性は完全に消えてしまうという。パストールらの議論は、Value投資としてのサステナブル投資に疑義を呈するものとなっている。サステナブル投資がValues投資である以上、カーボンプライシングを代替することもできない。ただし、パストールら自身は、サステナブル投資に否定的なわけではない(Chicago Booth Review, 2021)。Values投資として相応の社会的役割を果たすことを期待している。これらのほかにも、金融経済学は金融行政とも密接に関わる研究も行っている。ルイジ・ジンガレス(Luigi Zingales、シカゴ大学)らは、資金提供先企業のグリーン化を促す上で、企業から資金を引き揚げること(exit)よりも、企業に関与すること(voice)の方が効果的であると、理論的に示している(Broccardo et al., 2022)。実証的にも、exitはほとんど効いていないとする研究が出ている(Berk and van Binsbergen, 2024)。今後もアメリカの金融経済学からは目を離せない。(出典)Pastor et al., 2023に基づき、筆者作成。(3)次の機会への準備期間 52 ファイナンス 2024 Oct.2022年11月の中間選挙では、事前予想よりも民主党が健闘したものの、下院の多数を共和党に明け渡した。バイデン政権の後半には、経済関係の大型法案を成立させることは望みがたいものとなった。インフレ抑制法に盛り込む機会を逸した施策は、大統領の予算教書で提案されることはあっても、実現の見通しを失った。むしろ、インフレへの選挙民の反発を目の当たりにし、バーンスタインらも雇用への悪影響が極小化されることを願いつつも、インフレの鎮静化を望み、政権前半の達成を守ることに注力した。この時期の議論の焦点は、前半の達成(あるいは失敗)を踏まえ、今後の方向性を探るものとなった。多くの経済学者を悩ませたのが、急ピッチの利上げにも関らず、インフレが容易には低下しない一方、成長や雇用が減速する兆しもあらわれなかったことである(図1.3)。金融政策が実体経済に与える影響はタイムラグを伴うものだが、金融引き締めが不十分であるとの指摘も絶えなかった。サマーズは、財政政策が過度に拡張的であるという認識のもと、金融政策が一層引き締め的でなければ、インフレを抑制することはできないと指摘した。ブランシャールは、ベン・バーナン

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