ファイナンス 2024年10月号 No.707
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財務総合政策研究所の令和5(2023)事務年度の活動について*6) 「財務省再生プロジェクトについて」 https://www.mof.go.jp/about_mof/introduction/saisei/index.htmlファイナンス 2024 Oct. 37 (2) 令和5(2023)事務年度の活動にあたって考えたことへの掲載のほか、公式SNS(Facebook,X)・メールマガジンを発信している。また、学術論文誌「フィナンシャル・レビュー」に定期的に年度毎の活動について記載している。直近の「令和5(2023)年度(令和5(2023)年4月~令和6(2024)年3月)の財務総合政策研究所の活動」については、本年8月に出た令和6(2024)年通巻第157号に掲載された。さらに、財務省広報誌ファイナンスでは、所員の寄稿により、「PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~」という連載を行っている。直近の令和6(2024)年9月号では、連載35回目「韓国との研究交流強化」(執筆者:財務総合政策研究所 総務研究部 総務課長 川本敦、国際交流課課長 田畠秀高、同国際交流専門官 織田史郎、同企画調整係長 福本満)との記事を寄せている。(1)トライアンドエラー上述のように、財務総研の事務の内容自体は、財務省組織令第67条で規定されているが、ミッションを明示しているわけではない。財務省全体としては、財務省再生プロジェクトの活動の中で、「国の信用を守り、希望ある社会を次世代に引き継ぐ」を使命として明確化した*6。財務総研においては、過去からのアカデミックな知見を踏まえた上で、そうした知見や独自の新たな視点を資料化して財務省職員に提供していくことが大きな仕事ではないかと考えた。ここで、研究とは知の公共財をつくることだといわれる。有名な言葉に「巨人の肩に乗る」という言葉がある。万有引力で知られるアイザック・ニュートンが書簡(1676年)で用いたという。曰く、「私が遠くまで見通せたのだとしたら、それは巨人の肩の上に乗っていたからです」ということだ。偉大な先人たちの業績や先行研究などを巨人に喩えて、現在の学術研究の新たな知見や視座、学問の進展といったものもそれらの積み重ねの上に構築され、新しい知の地平線が開かれることを端的に示した言葉とされている。それでは、目の前の顧客である、財務省の職員がどういうことで知見の提供が欲しいか、については必ずしも正解が決まっているわけではない。この点について、筆者が研修部担当の副所長としてかかわった「職員トップセミナー」(令和5(2023)年8月25日開催)で講師をしていただいたホッピービバレッジの石渡美奈・代表取締役社長の講話が示唆深く感じた。「市場調査で『ホッピーはダサすぎる』『もっとオシャレなものにしてほしい』『割って飲むのが面倒なのであらかじめ割った商品を作ってほしい』という声があったので、お客様の声をそのまま守って、広告会社勤務時代に友達になったデザイナーとコピーライターにお願いしてホッピーハイという商品を作ってもらいました。しかしこの商品が世の中に出た瞬間、『ホッピーがこんなにオシャレであるはずがない』というお客様からの声がありました。こいつはホッピーという名を被った偽ものに違いない、ということです。また、ホッピーハイは焼酎で割っているわけではないので、いつもの味にならないのです。結局のところ、居酒屋で飲むホッピーと違うじゃないか、割らないとつまらないじゃないか、ということになり、大失敗でした。スティーブ・ジョブス氏が「多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのか分からない」という名言を残していますが、本当に彼の言う通りで、実はお客様も本当に欲しいものはお分かりになっていない、ということを知る経験になりました」というものだ。財務総研も、職員にアンケートしてニーズをはかることは大切かもしれないが、マーケティングをしただけでは職員が本当に欲しいものがわかるわけではないので、自らも考え抜かなければならない、というオチになる。ホッピービバレッジにも失敗談があるように、我々の仕事がいつも飛ぶように売れるというわけにはいかないかもしれない。トライアンドエラーをしながら取組むことが非常に重要だ。そのように考えると、財務総研の業務を、フローとストックという視点で分けると、ストックについて十分活かされているだろうか。財務総研の長年に亘る活動で蓄積された知見を財務省のナレッジとして更に利活用していくことを考えるべきではないか。あるいは、

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