*1) 『法令用語辞典』(第11次改訂版)*2) ライト兄弟が人類初の動力飛行に成功したのは、明治36年のことであった。*3) 旅行雑費は、昭和25年の法制定当時には存在しなかったが、昭和27年の法改正によって追加されたものである。*4) 必要に応じて金額や運賃の等級等の見直しは随時行っているものの、70年以上にわたり、法律の基本的な内容は維持されてきた。 20 ファイナンス 2024 Oct.1.はじめに「旅費種目」という言葉を聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。「鉄道賃」や「航空賃」といった交通機関の利用に関する旅費を思い浮かべる人もいれば、「宿泊料」といったホテル代に関する旅費を思い浮かべる人もいるだろう。旅費は、一般的には、旅行のために要する費用であるが、法令上は、旅行者に対してその旅行中の費用を償うための費用(実費)弁償として支給される金銭を指して用いられる*1。国の旅費制度は、国家公務員等が公務のため旅行(出張・赴任等)した場合に国が支給する旅費を規律する。公務の内容が多岐にわたり、様々な旅行のスタイルがありうる中で、国の旅費制度は、国家公務員等について、どのように旅行させるべきか、どのような費用を支給すべきか、という一般的な規範を定めている。このため、旅費制度が定める旅費種目やその内容は、その時代における旅行のスタイルを反映するものと言える。我が国の旅費制度の沿革は明治時代に遡るが、明治19年閣令第14号は、内国旅行における旅費種目として、汽車賃、汽船賃、車馬賃及び日当を規定し、明治20年閣令第12号は、外国旅行における旅費種目として、船舶料、汽車料、客舎料、食卓料、日当及び支度料を規定していた。何とも古めかしいが、こうした旅費種目の名称は、当時の旅行のスタイルを色濃く反映したものだったのだろう。当然、航空機の利用は想定されていない*2。また、内国旅行と外国旅行に法令が分かれており、両者が全くの別物と捉えられていたことも興味深い。第二次世界大戦後に、国家公務員等の旅費に関する法律(昭和25年法律第114号。以下「旅費法」という。)が制定されると、(章立ては分かれているものの)内国旅費と外国旅費の規定が一つの法律に統合され、旅費種目としては、鉄道賃、船賃、航空賃、車賃、日当、宿泊料、食卓料、移転料、着後手当、扶養親族移転料、支度料、旅行雑費*3及び死亡手当が規定された。旅費法において規定する旅費種目やその内容は、現在まで基本的に維持されてきており*4、国家公務員にとっては、馴染みがあるものも多いだろう。しかしながら、現在の視点から改めて見てみると、違和感を覚える読者もいるかもしれない。例えば、宿泊と移動がセットになったパック旅行の利用が盛んになっている中で、パック旅行に対応する旅費の計算方法が制度上確立されていない。また、在宅勤務など働き方の多様化に伴い共働きの夫婦が増加し、赴任時に扶養していない配偶者も一緒に移転しうる中で、「扶養親族」のみを旅費の対象とするという線引きが適切なのかという疑問もあるだろう。さらに、旅費種目の内容に目を配ると、宿泊料や移転料等が定額で規定されていることは、為替・物価の急激な変動が起こり、需給状況に応じた価格設定(ダイナミックプライシング)も普及している中で、時代に即しているのかという疑問もあるだろう。旅費制度が定める旅費種目やその内容は、その時代における旅行のスタイルを反映するものである以上、時代の変化に合わせて適時適切に見直すことが必要である。今般、国内外の経済社会情勢の変化に対応するとともに職員の事務負担軽減を図るため、国の旅費制度が抜本的に見直されることとなった。その背景及び旅費法改正の概要については、既に『ファイナンス』7月号において紹介しているが、本稿では、その続編として、国家公務員等の旅費制度の見直しに ついて(政令編)主計局給与共済課 前課長補佐 秋山 稔/前課長補佐 末松 智之/課長補佐 小谷 陽/前給与第5係長 久保 輝幸/給与第5係 谷 源太郎/前給与第4係長 畝川 翔太/前給与第4係 絹川 真由/前給与第2係長 下田 滉太/前給与第1係 西山 隼矢
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