ファイナンス 2024年10月号 No.707
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黒田東彦前日銀総裁、東京大学講演「財政金融政策に関する私の経験」(前編)ファイナンス 2024 Oct. 15 三重県で地方行政を経験する(1984〜86年)その後、1984年夏に三重県庁に出向し、総務部長を務めました。国からの補助金と地方交付税については、補助金が地方公共団体の支出に影響を与えようとするのに対し、地方交付税交付金は、使途が特定されず、支出に影響を与えない補助であると説明されていました。その中で補助金と地方交付税についての扱いが趣旨と違っているのではないかと思いました。補助金とは、それを出すことによって、当該地方公共団体が補助されたものにより多く歳出することを考えています。そのため、定額の補助金や少額の補助金だと効果がなく意味がないと思っていました。しかし実際には、定額の補助金や少額の補助金がたくさんありました。地方公共団体としては、そうした補助金をもらっても、該当項目の歳出を増やそうと思わないからあまり意味がないと思いました。逆に地方交付税は、本来的には一般財源で、何に使ってもいいというものですが、地方交付税の交付のIMF拡大構造調整融資制度を支援し、「宮澤構想」を推進する(1987〜89年)その後、東京に戻りまして、最初は大臣官房調査企画課参事官になりました。ちょうど1986年5月の東京サミットで、G7が出来た際、G7について経済指標を使ってサーベランスを行い、そして経済協調をするという触れ込みで、国際金融局だけでなく官房でもそういう経済指標をチェックする必要がありました。当時、新設されたポストでして、調査企画課参事官としてG7関連の仕事をしていました。基準に何十もの指標があり、その組み合わせで交付税がどれくらいの金額になるかが決まるようになっていました。例えば、道路の延長なども含まれており、そういう部分があると、補助金と同じになってしまうわけですね。それはおかしいなと思いました。補助金は補助金としての役割を発揮できるように交付すべきであり、地方交付税は交付基準を人口や面積などに単純化して、地方公共団体が操作できることがないようにすべきです。操作できるというのは逆に言うと、補助金のように地方交付税を使うということになってしまうのでそれはおかしいと感じました。そこで「補助金と地方交付税に関する理論的分析」というタイトルで論文を財務総合政策研究所の『フィナンシャル・レビュー』という雑誌に掲載しました。三重県の総務部への出向期間には、県議会に警官隊を動員する等色々な事件がありましたが、私が一番覚えているのは、補助金と地方交付税が一般的に言われているような機能になっていない、ある意味歪んだことになっている問題を指摘したことです。このところ、地方交付税がますます補助金と同様に運用されるようになっているのは、気がかりなことです。そこには1年在籍し、その後1987年に国際金融局の国際機構課長になり、1988年までいました。ここで非常に大きかった出来事は、IMFがESAF(拡大構造調整融資制度)という制度を作ろうとしていたことです。ESAFというのはSAF(構造調整融資制度)の拡大版です。ESAFは特に途上国、最貧国など国際収支困難に陥っている国に条件付きで低利の特別な融資を行うものでした。当時、IMFは、保有金の売却益で低開発途上国に低

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