ファイナンス 2024年10月号 No.707
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14 ファイナンス 2024 Oct.グリーンカード導入延期と納税環境整備に関与する(1981〜83年)同様のことが、実はグリーンカード導入延期にも言えます。これはそういったケースの最たるものと言われます。私は2年間調査課にいたのですが、結局一般消費税は導入しないということで、2年目は時間ができました。その時間を使って、『財政・金融・為替の変動分析―相互波及のメカニズム』という本を東洋経済新報社から出しました。このタイトルは私がつけたのではなく、東洋経済新報社の編集者がつけてくれました。本を出す時に上司の許可がいるかどうかという話ですが、実は大蔵省は非常にリベラルなので、勝手に何を書いても構わないということです。その点、IMFや中央銀行では個人的な論文であっても、全て上司の許可が無くては発表できないことになっています。職員が所属している組織の方針と反対の事を書くと困るからです。大蔵省では構わないということだったので、大蔵省の政策に批判的なことも書いてあります。その後、私は、間接税を担当する主税局税制二課に移りました。一般消費税が導入されないので、既存税目で増税して財政再建をしようということになります。税制二課は、酒税、物品税、印紙税という3つの間接税を同時に増税するという、主税局としてもほとんど例のない案を作成しました。自民党の税制調査会を通り、国会も通り、その通り執行されたのですけど、後で思うと、これほど巨額の間接税の同時の増税は、ある意味一般消費税の時と似た側面もあります。したがって、大変な反発が経済界や政治家からあり、その後は「増税なき財政再建」に政府の方針が変わりました。この間接税増税には理屈もあったし、国民からも受け入れられたと思ったのですが、実際に行われた後になって、経済界や政治家から不満が出てました。増税による財政再建はだめだ、増税なき財政再建だと言われ、全体の財政の方向が変わったということがあります。やはりそういうことを含め、国民や国会の合意を得られるかどうかを考えないと、結局後から綻びが出てくるなと思いました。不公平税制と目されていた利子・配当の分離課税を廃止して総合課税にすると、郵貯やマル優の非課税貯蓄に逃げ込むのではないかという懸念がありました。そこで、非課税貯蓄をするためには、グリーンカードの提示を義務付けようということになりました。限度額が守られているかどうかの監視もできる、というために始まったわけです。法律も通り、グリーンカードを配布する日も決まっていて、国民の合意も国会の合意も得られたと思い、いよいよグリーンカードを配布しようとした時に、最初は野党、次に、自民党から反対や延長論がでてきました。郵貯やマル優を抱えた銀行が反対して延期しろという話になり、自民党も延期法案を議員提案で出すという話になりました。これはどうにもならないということで、主税局としてもグリーンカードの発行を延期することを考えたのですが、法律そのものは、1983年1月から交付すると書いてあるのです。法律を出す時間もないので、政令で定める日まで延期するということを法制局に相談しましたが、法制局は法律で定められたことを政令で変えることはできないと断られてしまいました。このままだと違法状態になり大変だ、という時に竹下登大蔵大臣が誕生しました。竹下大蔵大臣が法制局長官を説得し、法律に書いてある日付を政令で延期できるとしたため、政令で延期し、その翌年に延期法を出して法律で延期し、何とか収拾したという話です。これについても、税制改正は税制調査会や国会で吟味し通過したとしても、国民の合意を得られているかを見極められないと、最終的にこうした事態になってしまうことを痛感しました。予算の方は、実際には各省が要求してそれを主計局が査定して、その内容について自民党の政調という部門で了解したうえで国会を通ります。その後、何か問題があると、大蔵省ではなく要求した各省に問題が向けられるため、予算については、国民の合意があるかどうかのチェックの必要性はあまりないともいえます。しかし、税の場合は直接国民に負担を求めるので、国民の合意が得られていないことをやろうとしても、国会を通ってもできないことになります。税については、必ず十分に議論して、国民が納得したというところまでもっていかないとできないということをこの時も感じました。

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