図表1 日本の実質GDP成長率、消費者物価、ドル円相場(注1)消費者物価上昇率は1991年以降、消費税率引き上げ等の影響を除く(注2)ドル円相場は年末値(出所)内閣府、総務省、BIS 10 ファイナンス 2024 Oct.東京大学 服部 孝洋2024年7月10日に、東京大学公共政策大学院において黒田東彦前日銀総裁(第31代総裁)が「財政金融政策に関する私の経験」をテーマにご講演されました。当日は、400名を超える学生や教職員にご参加いただきました。公共政策を学ぶ学生にとって大変刺激となる貴重な機会となりました。ご多忙な中対応くださいました黒田前総裁およびスタッフの方々に感謝申し上げます。本稿は当日の講義内容を活字化したものです。東京大学の学生向けに、黒田前総裁が大蔵省(現財務省)に入省されて以降のご経験をご講演いただいた貴重な内容です。また質疑応答では、海外での留学でのご経験や、現在公務員になることについてのメッセージなどもあり、学生だけでなく、多くの人に読んでもらいたいと思っています。なお、紙面の関係上、本講演録は2回に分けて掲載いたします。導入黒田前総裁:本日、この東京大学公共政策大学院で講演することは、東京大学法学部の卒業生である私にとって、大変に感慨深いものがあります。このような形で、東京大学の教授並びに学生の方々に対し、私の過去56年間にわたる財政金融政策に関する経験をお話しする機会を与えられたことについて、心より感謝いたします。私は1967年に大蔵省に入りまして、35年半財務省に勤務しました。その後2年間だけ一橋大学の教員をし、2005年から2013年までアジア開発銀行の総裁、そして、2013年から昨年2023年まで日本銀行の総裁を務めました。今日は、そこで得られた財政政策また金融政策、開発政策についての私の経験についてお話しさせていただきます。まず、図表1を御覧ください。このグラフは、1967年から2023年までの実質GDPの成長率、消費者物価の上昇率、および、ドル円レートの動きが示されています。1960年代までは高度成長が続き、成長率は約10%、インフレは約5%でした。1970年代に入ると、1971年のニクソンショックや1973年と1979年の2回の石油ショックなどにより、赤い線のGDP成長率が大きく振れて、約5%に落ち着き、それが80年代まで続きました。黒田東彦前日銀総裁、東京大学講演 「財政金融政策に関する私の経験」 (前編)
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